NFV(Network Functions Virtualisation)は、本特集でこれまで紹介してきたように、ハード/ソフト分離による通信機器市場のエコシステムの変革である。通信事業者にとってはNFVを採用することで、これまでの垂直統合された高価な専用機器に変わって、物理サーバーは汎用サーバーで、ネットワーク機能のソフトウエアパッケージはこのベンダーでといった具合に、コンポーネントごとに最適な製品を選ぶことが可能になる。ハード/ソフト分離によるオープン化によって競争が促進され、製品の価格が下がっていくことも期待される。

 米インテルや米デル、米ヒューレット・パッカードなどの汎用サーバーベンダー、米ヴイエムウェアや米シトリックスシステムズ、KVMをカスタマイズした製品などを展開するハイパーバイザーベンダーなどにとっては、NFVは新たなビジネスチェンスになるだろう。米コネクテムのような新規参入プレーヤーも登場している(関連記事:大手ベンダーが提供しているのは本来のNFVではない---コネクテム Co-Founder バリー・ヒル氏)。

 逆に既存の通信機器ベンダーにとっては、これまで占有してきたビジネスを奪われる構図となる。例えばモバイルコアの分野は、全世界で100億ドル規模の市場があると言われる。この分野はスウェーデンのエリクソンや中国のファーウェイ、仏アルカテル・ルーセント、フィンランドのノキアソリューションズ&ネットワークス(NSN)など、数社のベンダーによって占められていた。NFVはこのような通信ベンダーの勢力図を一変する可能性も秘めた動きであるわけだ。

 企業向けファイアウォールやWAN最適化装置などを提供する米チェックポイントや米リバーベッドテクノロジーのような仮想アプライアンスベンダーも、NFVによって影響を受けるだろう。第3回で紹介したように、企業向けの宅内機器(CPE)はNFVによってネットワークサービスとして仮想的に提供していくユースケースが議論されている。エンドユーザーへの“箱物”の販売から、通信事業者を経由した“サービス”としての提供へと、配分がシフトしていくかもしれない。

既存ベンダーは力点を全体のSIや管理運用系にシフトか

 NFVというキーワードが登場した約1年前、大手通信機器ベンダーは、ビジョンとしてのNFVに賛同しつつも、まだ本気でNFVを実現していこうという雰囲気は感じられなかった。上記のようにNFVは、大手通信機器ベンダーの既存ビジネスを脅かす動きであるからだ。しかしNFVによるイノベーションの流れは不可避と感じたのか、それとも今後のビジネス戦略が固まったのか、大手通信機器ベンダーはここにきて、NFVの実現に向けた具体的な戦略、取り組みを積極的に見せるようになってきている。

 例えばNSNのリサーチ&テクノロジー部門の総括責任者を務めるラウリ・オクサネン氏は「我々のNFV戦略は、汎用サーバーやハイパーバイザーはサードパーティーやオープンソースに任せ、メインのビジネスとしてアプリケーションやシステムインテグレーションにターゲットを絞ることである」と語る。同社はこの9月に英ボーダフォンと共同でNFVによるVoLTE(Voice over LTE)のデモを披露している。

 スウェーデンのエリクソンも「Service Provider SDN」というソリューション名で、NFVのユースケースで言うForwarding Graph(Service Chaining)を商用レベルに近づけている。

 エリクソンのウルフ・エバルドソン上席副社長兼CTO、技術部門総責任者は「我々のコアコンピタンスはOSS/BSSを含めた運用管理系のコントローラーになっていく」という考え方を示す(写真1)。その上で、運用の自動化などネットワーク自体が知覚(Sentient)を持って動作していくようなビジョンを語る(写真2、関連記事:エリクソンとノキアが考える2020年の通信インフラ)。

写真1●エリクソンのウルフ・エバルドソン上席副社長兼CTO、技術部門総責任者
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写真2●エバルドソンCTOのプレゼン。「ネットワークが知覚化(Sentient)していく」というビジョンを語る
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