15:長距離に対応、スマートグリッドなど応用範囲拡大

 11bから11g、11a、11nと高速化の取り組みが目立っていたこれまでのIEEE 802.11の規格。ここに来て、究極のブロードバンドといえる11acや11adにめどが付いてきたこともあり、高速化の流れは一段落しつつある。

 代わりに目立ってきたのが、「高機能化」「長距離化」「用途拡張」に向けた取り組みである(表2)。積極的に新たな利用シーンを開拓しているのが現在のIEEE 802.11といえる。

表2●高速化一辺倒ではなく、高機能化や長距離化、用途拡張が目立ってきたIEEE 802.11の活動
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 具体的に、最近のIEEE 802.11の作業部会の動向を見ていこう。

 「高機能化」では、高速ローミングを可能にする「11r」、メッシュネットワークをサポートする「11s」などがある。これらの規格化は既に完了。この5月には802.11-2012として、11nなどと並んで正式な標準パッケージとしてまとめられた。現在作業中の部会としては、高速認証を実現する「11ai」などがある。

 「長距離化」では、電波の帯域としてテレビのホワイトスペースを利用する「11af」、900MHz帯を利用した長距離伝送用の「11ah」などの議論が進んでいる。「11ahはスマートグリッドへの応用なども見込まれており、最も参加者が多い」(アライドテレシス開発センターの真野室長)というように、次のビジネスの拡大に向けて、各プレーヤーが戦略的に動いている様子がうかがえる。

 「用途拡張」では、スマートグリッドをディスカッションのトピックとする部会や、ダイレクト通信を実現する「11z」などがある。以上のようなIEEE 802.11の現在の動きからは、無線LANの応用範囲が、ZigBeeや携帯電話のデータ通信など、他の無線通信が担っていた領域に拡大している構図が見て取れる。

16:標準化団体・業界団体がエコシステムを形成

 IEEE 802.11の規格と同様に、標準化団体や業界団体の動きや役割も変わってきている。無線LANの中心的な存在になりつつあるのが、Wi-Fiアライアンスだ。Wi-Fiアライアンスというと無線LAN機器の相互接続認定プログラムを運営するイメージが強いが、無線LANの利用シーン拡大を狙った取り組みが目立ってきた。

 例えばケーブルなしで高品質の映像や音声を伝送する「Wi-Fiディスプレイ」「Wi-Fiオーディオアプリケーション」や、信頼されたAPに自動接続する「Hotspot 2.0(Passpoint)」、エンタープライズの音声品質や高速ローミング、パワーセーブを実現する「Voice-Enterprise」など、新たな利用シーンを開拓する認定プログラムを次々に走らせようとしている。

 こうした動きに合わせて、様々な業界団体との連携を強めている。Wi-Fiアライアンスに参加するNECの小林シニアエキスパートは、「Wi-Fiアライアンスが、様々な団体のハブ機能を持ち始めている」とする。例えば60GHz帯を用いてHDTVの映像伝送を目指していた「WiGig」は、単独ではうまくいかなくなったが、Wi-Fiアライアンスと協働する道を選んだことで、Wi-Fiディスプレイとして息を吹き返した。同様に様々な標準化団体が、Wi-Fiアライアンスへとアプローチしつつあるという。

 小林エキスパートによると、Wi-Fiアライアンスの会合の中で特に最近目立っているのが、通信事業者、そしてサムスン電子やLGエレクトロニクスといった韓国勢だという。サムスンやLGは、Wi-Fi Directなどを使って、スマートフォンとテレビのコンテンツの共用などを志向している。利用シーンの開拓はWi-Fiアライアンスをうまく活用して進められており、自社に有利なエコシステムを形成している。

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