1:無線LANは社会の新しいインフラに

 無線LANが、コンピュータネットワークの枠を超え、様々な分野の通信を侵食し始めた。

 例えばHDMIケーブルなどが担っていた家庭内のディスプレイの伝送、ZigBeeなどに期待されていたM2Mの分野、さらにはスマートグリッドなど。これら幅広い分野の通信を、すべて無線LANが飲み込もうとしている。

 無線LANに関連する業界団体であるWi-Fiアライアンスには、関係する標準化団体のメンバーがこぞって参加してきているという。「あらゆる団体のハブとして機能するようになり、すごいスピードで無線LANのイノベーションが起こっている」(Wi-Fiアライアンスに参加するNECの小林佳和企業ネットワーク開発本部シニアエキスパート)。

 無線LANの標準化の動きも活発化だ。これまで目立っていた高速化は802.11ac802.11adなどギガビット/秒クラスの規格が登場し一段落。高機能化や用途拡張に重点が移っているのが、現在の無線LANの姿だ。

無線LANは破壊的イノベーション

 無線LANによるイノベーションは、携帯電話事業者のネットワークインフラも侵食している。トラフィック増大対策の切り札として、無線LANオフロードの取り組みが携帯電話事業者に欠かせなくなっているからだ(図1)。

図1●モバイルの競争のフェーズが変わる
スマートフォンの台頭により、携帯電話サービスはカバレッジからキャパシティーの競争へとフェーズが変わりつつある。そのキャパシティー向上の切り札となるのが無線LANだ。アンライセンスバンドである無線LANが競争手段の主役に躍り出ることで、これまでライセンスバンドの付与と事業免許が一体となっていた事業者間の競争の前提が崩れる。
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 情報通信総合研究所 グローバル研究グループ 主任研究員の岸田重行氏は、「無線LANは、携帯事業者にとって破壊的イノベーションになる」と語る。アンライセンスバンドである無線LANが無線技術の主役の一つになることで、事業者間の競争軸が変化するからだ。

 現在の携帯電話事業者の競争は、エリアの広さ(カバレッジ)から容量の大きさ(キャパシティー)へと移り変わりつつある。キャパシティーを向上するうえでは小セル化が欠かせない。この小セル化を実現するのに最も適した手段が無線LANである。「今後はマクロセルの存在は薄くなり、従来は大きなシェアを取れなかった事業者が、フェムトセルや無線LANによって挽回できるフェーズになる」(岸田氏)。

 無線LANは、通信事業者が抱える様々な課題も解決できる。その一つが、世界共通バンドであることだ。LTEは、世界中で導入周波数帯がバラバラであり、国際ローミングが難しい。だが無線LANをデータ通信のローミング手段とすれば、課題を解決できる。