「スマートフォンなどのモバイル機器はパソコンと併用して使うものではなく、パソコンに取って代わるものだ。新しいBIツールは、モバイル機器から利用することを想定して開発した」---。独SAPでビジネスインテリジェンス(BI)やエンタープライズ・インフォメーション・マネジメント(EIM)ツールの開発を担当するデイブ・ワイズベック シニアバイスプレジデントはこのように話す。SAPのBI戦略や、2011年3月に日本で提供を始めたBIツールの新版「BusinessObjects 4.0(BO 4.0)」について聞いた。

(聞き手はは吉田 洋平=日経コンピュータ

企業の情報活用の現状についてどう考えているか。

独SAP BI/EIMソリューション管理担当シニアバイスプレジデントのデイブ・ワイズベック氏
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 情報が世界を変えており、いろいろなことの変化が速くなっている。それに伴い、ビジネスの在り方も変わってきた。情報活用もそれに追随しなくてはならない。

 だが、企業のITの変化は遅い。消費者のITが非常に速いスピードで変化しているのとは対照的だ。携帯電話を使って目的地への経路を調べる、といったことはすごく簡単にできるのに、企業のITでは同様の利便性が実現できていない。

 情報活用や分析の在り方自体も変わってきているし、今後も変わっていくべきだと考えている。こうした状況を踏まえ、3月に日本で提供を開始したBO 4.0には、多数の機能を追加した。

新版で大きく変わった部分はどこか。

 インメモリーのデータベースソフト「High-Performance Analytic Appliance(HANA)」を開発し、BO 4.0と連携できるようにしたことで、大量のデータをリアルタイムに分析できるようになった。

 近年、企業が蓄積するデータの量はすごい勢いで伸びている。一般的に、企業のデータは12~18カ月で2倍に増える。つまり、今プロジェクトを開始して2年後に完成するシステムがあるとしたら、扱うデータの量は、現在の2倍以上を想定していないといけないということだ。

 分析対象のデータソースを増やしたことも特徴だ。例えば、Twitterなどソーシャルメディアのデータが活用できるようになった。ソーシャルメディアは情報源になるだけでなく、適切な意思決定をするうえでも活用できる。

 もう一つ大きく変化したのが、BOを使用する際に利用者がメインで使う端末として、モバイル機器を想定していることだ。旧バージョンではパソコンを想定していた。

 今は、歯ブラシを持っている人数よりも携帯を持っている人数のほうが多い、という時代だ。モバイル機器は近年急速に普及したし、スペックも上がっている。現在の普通のスマートフォンは、ストレージやメモリーの容量、CPUの処理能力などが5年前のデスクトップパソコンと同等だ。

 こうしたことから、将来的にはモバイル機器は、パソコンにプラスして持つものではなく、それに代わるものになると思っている。当社は今後、いろいろなスマートフォンに対応できるように製品を開発する。パソコンでできたことをそのままモバイル機器でできるようにするのではなく、モバイル機器の特性を生かした機能を開発していく。

 ただし既存の機能との互換性は保ち続ける。「Crystal Reports」など、これまで提供してきたツールで、多数のユーザーが利用している製品は少なくない。こうしたツールが使えなくなってはいけないので、モバイル機器からでも扱えるようにする。

企業が保存するデータは本当に増えているのか。日本では、センサー情報や位置情報などを積極的に利用している企業はまだ少ない。ソーシャルデータを利用する場合でも、サービス提供者がデータを持ち、分析結果だけを提供している場合が多い。

 欧米の企業では確実にデータは増えている。例えば、欧米の企業がソーシャルメディアのデータを分析する場合、自社でTwitterのツイートのデータを持つケースが多い。その理由は、ツイートのデータを自社のCRM(顧客情報管理)管理システムのデータと結び付けて使うことを想定しているからだ。

 今年の1~3月の間だけでも、三つのCRMシステム構築案件で、RFP(提案依頼書)に「ツイートと顧客情報をリンクさせること」という文言があった。こういった企業の場合、ツイッター以外にFacebookの情報もCRMに取り込みたいと考えている。顧客がFacebookに公開しているプロフィールと自社の持つ顧客情報を照らし合わせれば、データをクレンジングしたり、足りないデータを補うことができるからだ。