米Novellで政府や自治体へのLinux導入を担当しているSolutions Creation Management Principal Strategist Lawrence Rosenshein氏が,イベント「自治体Linux最前線」での講演のため来日した。同氏は,欧米の多くの政府や自治体でLinuxの導入が進んでいると語る。同氏に,政府や自治体の事例の詳細や,Novell社内でのLinux移行プロジェクトから得られたノウハウについて聞いた。(聞き手はIT Pro 高橋信頼)

――米国政府や自治体でLinuxの採用は広がっているのですか。

Lawrence Rosenshein氏
 広がっています。政府や自治体はコスト,そしてセキュリティを目的としてオープンソース・ソフトウエアを採用してきています。

 最近のニュースは,米国国立衛生研究所(NIH)が米Novellと包括的なライセンス契約を結んだことです。NIHではSUSE LINUXをサーバー,クライアントとして無制限に使用できるという契約で,3年間で120万ドルの案件です。NIHとの契約が公表されてから,政府機関からの問い合わせが相次いでいる状況です。

 NIHではサーバーはほとんどLinuxに移行しています。デスクトップも,時間はかかりますが段階的に移行するでしょう。

――デスクトップのLinuxへの移行は簡単ではありません。

 現在Novell社内では社内約6500台のデスクトップの LinuxとOpenOffice.orgへの移行を進めています。移行にあたっては,事前調査を行い計画を立て,移行が容易なクライアントから順次変えていきます。困難なことではありません。

 もう一つの事例をお話しましょう。ネブラスカ州です。ちょうど移行のための調査を終えたところです。ネブラスカでは,高校生全員にLinuxを配布することを検討しており,実現すれば25万台になります。非常にエキサイティングな計画です。この計画が動き出せばほかの州も追随するでしょう。現在6校でパイロット・プロジェクトが始まっています。パイロット・プロジェクトはあと1カ月半行われ,それが終われば一斉に全校展開します。

 スペインのバルセロナ市も非常に興味深い事例です。2007年の半ばまでに100%のパソコンをSUSE LINUXへ移行する予定です。現在,各々12台のパソコンがある2つのシビック・センターでテストを行っています。テストが問題ない場合,2005年8月から12月にかけ,残りの60箇所のシビックセンターでOpenOffice.orgへの移行を行います。2006年中に,ほとんどのアプリケーションとサービスをSUSE LINUXおよびOpen Enterprise Serverを搭載した81台の分散サーバーと74台のミッドレンジ・サーバーに移行します。2007年には,すべてのWindowsパソコンを移行する予定です。

 マサチューセッツ州などは,アプリケーションを他の自治体と共有し再利用する取り組み「Government Open Code Collaborative」を始めています(関連記事)。政府や自治体では,このようなコラボレーションを阻むものがなく,オープンソース・ソフトウエアを採用する効果が高いのです。

――ドイツ ミュンヘン市のLinux移行プロジェクトにはNovellもかかわっていましたが,Debian GNU/Linuxが採用されました。

 ミュンヘン市では,Debian GNU/Linuxを採用することになりました(関連記事)が,これは技術ではなく,政治的な経緯で決まったものです。ご存知のように,ミュンヘン市の場合は,Microsoft CEOのSteve Balmer氏が休暇中にスキーを切り上げてミュンヘンに駆けつけるなどで,市議会を巻き込む騒ぎになりました。我々はIBMと組んでおり,IBM対Microsoftという構図になったわけです。市議会も双方の陣営に分かれ,にらみ合うといった状況でした。そこで解決策としては,地元の企業が受注することになり,IBMもMicrosoftも負けたということで決着を図ったというわけです。

――Novell社内でLinuxへの移行を進めていますが,どのような問題があり,どう解決されたのでしょうか。

 サーバー側では,ほとんど問題はありませんでした。移行はほぼ終了しました。

 25くらいの主なアプリケーションがありましたが,唯一の問題はSiebelの売り上げ集計ソフトでした。今,Linuxに移植するか,さもなくばSiebelのソフトの使用を止める,と交渉しています。

 クライアント側に問題は,技術的な問題ではなく,ハードディスクの空き領域が足りない,といったものです。最大の問題は「変化に抵抗を感じる」という人間の習性です。

 移行で最も重要なのはプランニングです。次は「移行するんだ」という意志です。

――デスクトップの移行ではドライバ・ソフトやOfficeのマクロなどが問題になることが多々あります。

 時間がかかるかもしれませんが,改善されてきています。現在ベータ版のOpenOffice.org 2.0はかなりよくなっています。

 ドライバについては,DellやIntelと密接に協力しており,こういったハードウエア・ベンダーとの協力により,問題はなくなってくると思います。

 Novell社内では,これらの問題にぶつかるユーザーは多くはありませんでした。

――移行のための費用とコスト削減効果は。

 社内アプリケーションの移行,ユーザーのトレーニングとサポート,移行作業などのため,初年度2004年のキャッシュ・フローは約150万ドルのマイナスとなります。しかし,ソフトウエア・ライセンス料を支払う必要がなくなったことで,年間200万ドルのコスト削減効果が出てきます。累積キャッシュ・フローは3年目にトントンになり,5年目には400万ドルのプラスになる見込みです。

――移行を成功させるための計画立案のポイントは何でしょうか。

 よいインベントリ(備品リスト)を作成することです。ハードは何を,ソフトウエアは何を使っているか,アプリケーションはWebベースか,ユーザーのスキルはどの程度で,どういったトレーニングが必要か。現状を正しく把握し,分析することが最も重要です。

■訂正
 当初,米国国立衛生研究所の略称をNIIHと記述しておりましたが,正しくはNIHです。お詫びして訂正いたします。