自民党政調会長 与謝野馨氏
経産省 小林利典氏
米Novell Lawrence Rosenshein氏
北海道庁 小林誠氏
徳之島天城町 基田雅美氏
 6月10日,日経Linuxと日経ガバメントテクノロジー主催のセミナー「自治体Linux最前線」が開催され,自由民主党 政務調査会長の与謝野馨氏,経済産業省 情報処理振興課長 小林利典氏,北海道 企画振興部IT推進室主幹 小林誠氏,鹿児島県徳之島天城町 電算係長 基田雅美氏,米Novell Principal Strategist Lawrence Rosenshein氏らが講演した。

「オープンソースの振興は必然」,自民党政調会長 与謝野馨氏

 自由民主党の政務調査会会長で同党e-Japan重点計画特命委員会の委員長も務める与謝野馨氏は「オープンなe-Japanへ向けての提言~オープンソースソフトウェア(OSS)振興の必要性~」と題して講演。セキュリティや安全保障,また日本のソフトウエア技術の空洞化を防止,国際的なデジタル・ディバイド解消などの観点からオープンソースの振興は必要と述べ,オープンソース・ソフトウエア普及に向けたシナリオとして「セキュリティの観点を十分に配慮しつつ,我が国最大の利用者である政府と自治体はオープンソース・ソフトウエアを積極的に利用し実績を作ることで民間市場への波及効果を狙うべき」と語った(詳細記事)。

 与謝野氏は「決してMicrosoftの果たしている社会的役割を否定するわけではない。しかし日本の社会が経済活動あるいは社会活動を行っていく上で,セキュリティの問題もあり,価格の問題もあり,有効な選択肢をOSSについても持っておく必要があるのではないか。政治として,応援できる場面ではぜひ積極的に応援していきたい」と述べた(関連記事:与謝野氏インタビュー)。

「特定の製品や技術に依存しない調達ガイドラインを策定」,経産省 小林利典氏

 経済産業省 商務情報政策局情報処理振興課長 小林利典氏は「政府/自治体へのOSS普及のシナリオ」と題して講演。小林氏は政府および自治体のITシステムが有するべき条件として「行政が責任を持てるシステムであること」,「利用者への平等性の確保」,「コストと機能」,「セキュリティ」をあげる。その観点から言って「これまでの政府の調達仕様は『M社のOS WSPと同等以上』など,ベンダーや技術を限定したものになっていたのではないか,これまでの電子政府システムは,あるブラウザでなければ文字化けするなど特定の商品や技術を利用している人しか満足にアクセスできない状態になっていたのではないか」と自省。総務省とも協力して策定中の,特定の製品や技術に依存しないソフトウエア調達のガイドラインの概要を紹介した(関連記事)。

 経産省では2004年度,教育現場でデスクトップ・クライアントとしてオープンソースが活用可能であること実証するための実験を実施したが,2005年度は自治体を対象にした実験を実施する(関連記事)。「業務分析から始め,課題を洗い出す。課題と解決方法などの成果はすべて公開する」(小林氏)。6月から7月に公募を行う予定だ。

 小林氏は「選択肢が限られると,ベンダーにボードを握られてしまう。よりよい行政サービスを提供できるシステムを作るためにはユーザーがボードを握るべき」と,ベンダー・ロックインに陥ることのないシステム調達の重要さを訴えた(詳細記事

「世界の多くの政府や自治体でLinuxへの移行が進んでいる」,米Novell Rosenshein氏

 米Novell Solutions Creation Management Principal Strategist Lawrence Rosenshein氏はノベル 代表取締役社長 吉田仁志氏とともに「オープンソースソフトウェアによるOpen Govermentの取り組み-オープンで高いセキュリティを持つ効果的な自治体ソリューションとは-」と題して講演した。ノベルの吉田氏は「オープンソースの意義は選択の自由」であると述べ,単一企業の提供するソリューションからの脱却を訴えた。

 米NovellのRosenshein氏は「米国エネルギー省,米国国立衛生研究所,ノルウェーのベルゲン市,ドイツのミュンヘン市,ブラジル政府,ドイツ政府,中華人民共和国,タイ政府,スペインのいくつかの州政府,米国国防総省など,世界中の多くの国でLinuxへの移行が進んでいる」と世界の動きを紹介。

 またNovellでは,ドイツSUSEを買収してLinux市場に参入したことにともない,社内約6500台のデスクトップのLinuxとOpenOffice.orgへの移行を進めている。Rosenshein氏によれば「社内アプリケーションの移行,ユーザーのトレーニングとサポート,移行作業などのため,初年度2004年のキャッシュ・フローは約150万ドルのマイナスとなったが,ソフトウエア・ライセンス料を支払う必要がなくなったことで累積キャッシュ・フローは3年目にトントンになり,5年目には400万ドルのプラスになる見込みだ」という。

 また ノベル プロダクトマーケティングマネージャ 飯田敏樹氏は「ノベルの自治体ソリューション」と題して講演。米国のネブラスカ州でSUSE Linuxを導入した事例などを紹介した。ネブラスカ州は職員約1万8000人。職員1人あたり10以上のパスワードを使用していたが,NovellのSUSE LinuxとeDirectory,Nsure Identity Manager,iChainを導入しシングルサインオン環境を構築したことで「ヘルプデスクのコストを20%,アプリケーションの開発コストを30%,Webのメンテナンス・コストを年間7万5000ドル削減するとともにセキュリティが向上した」(飯田氏)としている。

「OSSを活用した共同アウトソーシングでコストを低減する」,北海道 小林誠氏

 北海道 企画振興部IT推進室主幹 小林誠氏は「電子自治体の構築とOSSの活用」と題して講演した。北海道は,産官学の連携によるオープンソース活用支援に取り組んでおり,教育情報通信ネットワーク「スクールネット」やポータル・サイト「北海道人」をLinuxで構築している。そして現在,オープンソースを活用した共同アウトソーシングであるHARPに取り組んでいる。

 HARPでは,共通のシステム基盤を開発し,その上に,電子申請や調達,施設予約などアプリケーションを載せていく。オープンソースをベースとした共同アウトソーシングによりコストを低減するだけでなく,「開発単位の部品化,最小化により,大手だけでなく地元の中小IT企業が入札に参加できる競争環境を実現する」(小林氏)。このような発注単位を小口化し地元中小IT企業の参入を容易にする施策は,長崎県でも実施している(関連記事)。「HARPでは,特別な要件がなければ原則としてLinuxを使用する」(小林氏)。開発したプログラムのソースコードの公開も視野に入れている。

 HARPを推進する北海道電子自治体共同運営協議会には,北海道の自治体181団体のうち141団体が参加している。2005年度中には153団体と,8割以上の団体が参加する見込みだ。

「15県で電子入札システムが稼動中または開発中」,富士通 天野順二氏

 富士通 自治体ソリューション事業本部 担当部長 天野順二氏は「Linuxで実現する電子自治体ソリューション~先進事例紹介~」と題して講演。同社は電子申請,電子調達,情報提供,施設予約など自治体向けパッケージを次々とLinuxに移植している。島根県の電子申請共同利用システムは同社がLinuxをベースに構築していた。天野氏によれば「電子調達(入札)システムは15県で稼動中あるいは開発中」であるという。今後も住民記録,介護保険,図書館,内部情報などのシステムをLinux向けに提供していく。

「自治体システムに統合アーキテクチャを」,日本IBM 澤田清明氏

 日本IBM 公共事業インダストリーソリューション第二ソリューション営業部長 澤田清明氏は「電子自治体アーキテクチャーの概要」と題し講演。自治体では電子申請や電子申告などインターネット経由でサービス提供できる環境が整いつつあるが,それを支えるITシステムは受付システムが構築されただけで,受付後の後続処理が統合化されているとは言えない。また個々のシステムが乱立しコスト増を招いていると自治体の課題を指摘した。

「OSSの魅力は予算やベンダーに縛られない自由」,徳之島天城町 基田雅美氏

 鹿児島県徳之島天城町 電算係長 基田雅美氏は「トライアスロンと闘牛の島・Linux導入奮戦記~天城町電算係長の挑戦~」と題して講演した。徳之島は鹿児島から南に約470km,人口約7300人の島。トライアスロンと闘牛で知られる。基田氏は高橋直子選手がトレーニングを行った際の写真や闘牛のビデオ,島の風景や天然塩などの特産物をスクリーンに映し出し,また島の民謡を聞かせて島の魅力を紹介した。

 基田氏は電算係に異動する前は体育施設のインストラクタで,情報システムに関する特別な知識はなかったという。2001年,地域インターネット促進基盤整備事業でネットワーク整備を検討した際に,初めてLinuxを知った。「Linuxとは何?オープンソースとは?という状況で,素人同然の職員が扱えるのか疑問だらけだった」(基田氏)。しかし調べてみるとクライアント・ライセンスがいらず,Windowsや基幹システムとも融合できる,知識のない職員でも管理がしやすいことがわかった。何より「最大の魅力は自由があること」(基田氏)。予算に縛られることなく,様々なソフトウエアを導入していろいろなアイデアを試してみることができる。「同僚とともに町長を説得した」(同)という。

 現在,Linux上でWebサーバーApacheやメール・サーバーsendmail,管理ツールWebmin,Windows互換ファイル・サーバー・ソフトSamba,不正侵入検知ソフトSnort,グループウエアLa!coodaWIZ,サーバー用アンチウイルス・ソフトCalmAVなど,様々なオープンソース・ソフトウエアを使い倒している。オープンソースのECサイト構築ソフトosCommerceを使い,島の商品を販売するサイト「ゆいショップ」も運営している。

 基田氏は「今後も低コストで機動力のあるより安全なシステムを構築していく」と語る。2005年度は,1CD LinuxのKNOPPIXとオフィス・ソフトOpenOffice.orgを導入する予定だ(関連記事:基田氏インタビュー)。

(高橋 信頼=IT Pro)

【おわびと訂正】
記事掲載当初,「Novellでは...社内約6500台のデスクトップのLinuxとExcelへの移行を 進めている」としましたが,正しくは「LinuxとOpenOffice.orgへの移行を進めている」です。おわびして訂正いたします。