米Microsoftの現在の利益構造を見ると,デスクトップ版WindowsとOffice製品が最大の利益源となっている。しかし,これらの市場は飽和しつつあり,将来の大幅な成長は期待できない。一方,MSN,コンシューマ機器,エンタープライズ・アプリケーションなどの市場は将来性が高いが,現状では赤字である。

 このことから,少なくとも今後5年間のMicrosoft社の戦略では,サーバー系のソフトウエアが重要な役割を果たすことになる。利益率は比較的高く,また(主にUnixの市場機会を奪うことで)短期的な成長が期待できるからである。この分野で今後どのような動きがあるかを見ていくことにしよう。

◆短期的にユーザーの課題となるNTのアップグレード

 現時点におけるWindowsサーバーの導入ベースの70%以上は,NT4.xを使用していると推定される。周知のように,NT4.xサーバーのサポートは2004年末で実質的に終了するため,2004年は多くのユーザーがWindows Server 2003への以降を余儀なくされることになるだろう(Windows 2000 Serverも2007年にはサポート終了となるため,現時点で移行するのであればWindows Server 2003にすべきである)。

 サポート切れにより,ユーザーに不要なバージョン・アップを強いているとの批判もあるようだが,NT4.xの登場が,1996年であることを考えれば,他のソフトウエア・ベンダーと比較してMicrosoft社のサポート姿勢が極端にひどいというわけではない。

 Windows Server 2003への移行はMicrosoft社にとって2004年における大きな収益源となるはずだが,ここで,「どうせ移行するならLinuxへ」というユーザーがどれくらい出てくるかが,Microsoft社の業績を左右することになるだろう。Windows Server 2003は,基本的にWindows 2000 Serverのマイナーチェンジであるため,コード的には枯れており,比較的安心して展開できるとガートナーは見ているが,やはり,セキュリティが重要なインターネットへのエッジ領域では,この機にLinuxへ移行するユーザーは少なくないだろう。

◆サーバー版「Longhorn」で何が変わるのか?

 Windows Server 2003の次期メジャー・バージョンは,2006年に,場合によっては2007年に出荷開始されると予測される。このバージョンは,以前は「Blackcomb」というコード名で呼ばれていたが,現在ではデスクトップ版と同じ「Longhorn」というコード名で呼ばれているようである。

 サーバー版の「Longhorn」では,デスクトップ版で先行して採用予定の新しいファイル・システムであるWinFSに加え,管理機能の充実が重要な新機能になるだろう。これは,本コラムの4月10日から5月8日にかけて述べてきたDSI(Dynamic System Initiative)戦略の実現にほかならない(連載1回2回3回4回番外編)。

 では,それまでの間,サーバー系の機能拡張は行われないのかというとそのようなことはなく,サービスパック的な形で,段階的な機能拡張が行われていくことになるだろう。かつては,Microsoft社は,デスクトップ版のバージョン・アップを毎年行い,それと同期してサーバー版を出荷する目論見を持っていたようだが,さすがに,企業ユーザーの,しかも,サーバー系のソフトでは頻繁なバージョン・アップは現実的ではない,ということに気付いたようだ。

 サーバーのメジャーなバージョン・アップの間隔は延ばし,その間の機能拡張をサービスパックで埋めるという考え方は一見良いとこ取りのように見える。しかし,実際には,サービスパックが導入されているか,いないかで数多くの構成パターンができてしまうリスクが増す。しっかりと構成管理ができていなければ,問題発生時の解決に大きな負荷を要することになる。これは,Windowsを管理するユーザーにとっても,Microsoft社にとっても重要な課題だ。

◆2008年におけるWindowsサーバーの姿

 現在でも,2500同時並行ユーザーをサポートするWindowsの事例が存在し,超ハイエンド領域を除いては,スケーラビリティは大きな障害とならなくなっている。また,可用性についても,99.6%以上のアップタイムを実現している事例が存在し,社内向けの基幹業務であれば必要にして十分と言えるまでになっている。

 今から5年後の2008年には,Windowsサーバーのスケーラビリティと可用性は,他のOSと比較してそん色のないものになっているだろう。この時に,OS間の差異化要素となるのは,やはり管理容易性である。前述のようにLonghornの拡張が管理機能中心になるのも当然のことである。

◆優位性でもあるが同時に課題でもある「Integrated Innovation」

 WindowsサーバーOS上で稼働する「SQL Server」や「Exchange Server」などのミドルウエア群は,かつて,「.NET Enterprise Server」と呼ばれていた(その前は「BackOffice Server」と呼ばれていた)。何でもかんでも「.NET」という名称を付けてしまうブランド戦略はユーザーを混乱させるだけだと,ガートナーはかねてから批判していたが,結局,Microsoft社は,サーバーのブランドとしての.NETという言葉の使用は取りやめ,「Windows Server System」というブランド名を使用することになった(個人的には,このような普通名詞と区別できないブランド名もどうかと思うが)。

 ここでMicrosoft社の戦略のユニークな点は,OSと上位ソフトウエア間の統合がますます緊密になっていく点である。関連するソフトウエア群を個別製品としてではなく,統合したスイート製品として提供する戦略は,ほぼすべてのソフトウエア・ベンダーが採っている。しかし,Microsoft社の場合,この戦略はかなり極端である。

 最終的には,Windows Server Systemの各製品は,Webサービスの塊として実装され,共通のインタフェースで相互呼び出し可能になる。また,例えば,先のWinFSは,次期SQL Sevrerの「Yukon」のコードをベースにしているというように,製品間の機能の共用もかなり積極的に行われていくことになるだろう。

 最近になり,Microsoft社は頻繁に「Integrated Innovation」という言葉を口にするようになっている。「Microsoft社の技術革新は統合にあり」ということだ。多くのソフトウエアが,(相互連携はしているが)独立したコミュニティで開発されているオープン・ソース・ソフトウエアに対するアンチテーゼと考えることもできるだろう。

 確かに,製品統合はユーザーにとって価値をもたらす。多種多様な製品のユーザーによる統合の負担を軽減してくれるからである。米IBMのAS/400やメインフレームなどのプラットフォームが特定のユーザーに高い満足度を提供していることからもこれは明らかだ。

 ただし,過剰な統合はデメリットももたらす。第1に,製品間の依存性が大きくなり,開発期間が長期化するリスクがある。例えば,次期SQL Serverである「Yukon」は,もともと2001年に出荷予定だったが,早くとも2004年中盤までは出荷されない。この遅延には,前述のWinFSとの統合が1つの理由になっているだろう。

 また,ユーザーにとっては,他社のテクノロジの活用が不便になるリスクがある。すべてMicrosoft社の製品で統合しなければ使いにくいという状況になりかねない(既にデスクトップ環境ではこの状況が発生している)。このような制約は,より選択の自由があるLinuxへの動きを加速することになるかもしれない。

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 さて,およそ1年半にわたって連載を続けてきましたが,ここで,いったんこの連載はお休みをさせていただくことになりました。また,別の機会でお目にかかることができると思います。ご愛読どうもありがとうございました。