昨年の10月から11月にかけての本コラムで,ガートナーが考える自律型コンピューティング戦略である「PBCS」について解説した(連載第1回)。その後,日立の「Harmonious Computing」(関連記事),そして,富士通の「Triole」などの発表があり,今や,国内ベンダーを含むすべての主要システム・ベンダーが自律型コンピューティング戦略を推進している状況となった。このような動向には単なる流行としてかたずけられない長期的な重要性があるだろう。

 ところで,ガートナーは,ベンダー中立な自律型コンピューティングの用語として,「PBCS(Policy-Based Computing Service)」という用語を使用していたが,最近になって用語を変更し「RTI(Realtime Infrastructure)」という言葉を使用することとした。

 アクロニム(頭文字による単語)を乱発して世の中を混乱させることはしたくない(そのような行為をするベンダーを批判することが多いガートナー自身がしてしまうのは少々気まずい)のだが,より直感的に理解しやすい用語をという顧客からの声にこたえたものである。

 昨年11月7日の記事では,「ガートナーは,2003年前半にはMicrosoft社が何らかのPBCS戦略を打ち出すことになると予測している」と書いた。そして,その予測通り,3月18日にMicrosoft社は,同社の自律型コンピューティングである「DSI(Dynamic System Initiative)」を発表した。

 自律型コンピューティングが主な対象とする,複雑で大規模な分散システムの管理はMicrosoft社の主戦場とは言えなかった。そのような領域に対して,同社がフォーカスし始めたということは,(最終的に同社がどの程度の実力を発揮できるかはさておき)自律型コンピューティングの長期的重要性を示す1つの証拠と言ってよいだろう。まだ具体的な製品があまり見えていないため,発表としての扱いはそれほど大々的ではないのだが,市場,そして,ユーザー企業に与える長期的なインパクトという点では無視できないだろう。

◆Microsoft社の3大戦略

 今年2月に行われた業界アナリスト向けの戦略説明会において,Bill Gate氏はMicrosoft社の3大長期戦略として以下の3点を挙げた。

(1)XML Everywhere(あらゆるところにXML)
(2)Trustworthy Computing(信頼できるコンピューティング)
(3)Innovations in Operation(運用における革新)

 (1)は要するにXML Webサービス戦略である。Webサービスについては,また回を改めて解説したいのだが,その重要性はXMLによる自己記述型のスキーマを採用している点にあるということは言うまでもない。Microsoft社は,Webサービスを単にユーザー・アプリケーションの連携手段として使用するだけではなく,自社のソフトウエア製品のインタフェースもWebサービス化していこうとしている。つまり,Microsoft社の製品群そのものが,サービス指向アーキテクチャにより構築されていくことになるわけである。

 (2)は改めて説明するまでもないが,自社製品のセキュリティと信頼性を向上するためのイニシアチブである。現状では,努力は認めるが結果にはあまり結びついていないというのが正直なところだろう。

 そして,(3)こそが今回のトピックであるDSIに相当するものである。

◆DSIの本質

 DSIの重要なポイントは3点あると考える。1つ目は,仮想データ・センターである。自律型コンピューティングの基本は資源の仮想化にあり,という点は既に述べた(連載第2回)。自律型コンピューティングの目標である複雑性の減少のためには仮想化は不可欠だからである。ネットワークそしてストレージの仮想化という点では,既にテクノロジは成熟しつつある。今,特に注目すべきはサーバーの仮想化である。その意味で,米Connectixからのテクノロジ買収は重要な意味を持つだろう(関連記事)。

 2番目のポイントは自己チューニング機能である。実は,OSとして見たときにWindowsがUnixやメインフレームと比較してまだ機能格差が存在するのが,ここである。自己チューニング機能はWindows Server 2003以降のMicrosoft社のサーバーOSの重要強化点となっていくだろう。

 そして,最後のポイントは,“design for operation”(運用を見込んだアプリケーション設計),つまり,ソフトウエアのライフサイクル全般にわたって運用の効率化を目指すという考え方である。「とりあえずプログラムを作っておいて,運用は後から考える」というお気楽な思想のアンチテーゼである。これは,おそらく自律型コンピューティングの領域におけるMicrosoft社の最大の差異化要素になるだろう。

 次回は,これら3点の詳細について分析していくこととしよう。