「自律コンピューティング」は最近のITの世界におけるバズワード(流行語)の1つとなったと言って良いだろう。私事ながら,筆者も自律コンピューティング(ガートナーの用語で言えばRTI(Real Time Infrastructure))に関する講演をする機会が増えている。

 このようなバズワードが世の中に登場した際によく聞かれる批判は,それがベンダー主導で生まれた言葉であり,ユーザーの真の要望を反映していないというものだ。実際,今までにも,ITベンダーが自社のマーケティングの都合で,ユーザーの実情と乖離(かいり)した実体のないバズワードを無理やりにはやらそうとしたが失敗し,あっという間に忘れ去られてしまうようなケースが数多くあった。その一方で,ユーザーが求めているものを適切に表現したバズワードであれば,一般用語としてITの世界に定着していくことになる。

◆“自律コンピューティング”は定着するか?

 では,自律コンピューティングはどちらのパターンに属するのだろうか? 筆者は後者であると考える。(Windows環境のみではあるが)それを裏付ける興味深い調査結果があるので今回はその一部をご紹介しよう。

 このデータは,昨年の12月に米国で開催されたガートナーのデータセンター・コンファレンスのWindowsセッションの参加者に対するアンケート調査の結果である。136名とサンプル数自体はさほど多くないが,米国の一般大企業の情報システム部門の意思決定者の意見であり,それなりに米国のITユーザー層の意見を代表していると言ってよいだろう。

  図1●エンタープライズ・コンピューティングにおけるWindowsの最大の課題は? ガートナー調べ


 図1は「エンタープライズ・コンピューティング(全社的基幹アプリケーション)におけるWindowsの最大の課題とは?」という質問への回答である。「セキュリティ」がトップになると思われそうだが,実際には,「コンソリデーション」(いわゆる,サーバー統合)と「管理容易性」がトップであった。

 この2つの問題の根は同じである。ユーザーは多数のWindowsサーバーの管理負荷の大きさに音を上げ,できるだけサーバーを少数にまとめて管理したいと考えているのである。そして,サーバーをまとめて(仮想化し)管理を容易にするのは,自律コンピューティングの最大の目標にほかならない。

 ちなみに,「スケーラビリティ」への要望はさほど大きくないないことが分かる。米Unisysの「ES7000」やItanium 2を搭載した米Hewlett-Packard(HP)の「superdome」などが,性能ベンチマーク・レースでUnixサーバーと互角に戦っていることを見ても,Wintelサーバーは充分スケーラブルになったと言ってよいだろう。

◆ワークロード機能を求めているユーザー

 別の質問,「将来のWindowsサーバーに求められる機能は?」への回答(図2)では,コンソリデーションを求めるユーザーの動向がよりクリアーになっている。多くのユーザーが,1つのOSイメージ下で複数のアプリケーションが効率的に稼働する機能を求めているのである。これは,2003年4月18日の記事で述べたワークロード管理機能にほかならない。ワークロード管理機能は自律コンピューティングの自動チューニング機能を提供する第一歩である。米MicrosoftはWindows Server 2003のWSRM(Windows System Resource Manager)でこの問題に対応しようとしている。しかし,過去の回に述べたように,当面の間はUnixとの格差は残ることになるだろう。

  図2●将来のWindowsサーバーに求められる機能は? ガートナー調べ


 今,日米問わず,ITのユーザー企業に対して「あなたは自律コンピューティングを必要としていますか?」というダイレクトな質問をしたならば,「はい」と答えるユーザーは多くはないだろう。しかし,実際には,多くのWindowsユーザーが自律コンピューティングの要素であるワークロード管理機能を求め,自律コンピューティングが提供する管理容易性などのメリットを求めているのである。Unixの世界でも,Windowsほどではないかもしれないが,管理容易性とコンソリデーション機能を求める傾向は大きく変わらないだろう。

 自律コンピューティングが10年レンジの長期間でITの現場に(おそらくは多くのユーザーが気付かぬうちに)浸透していき,いずれ不可欠な要素となるとガートナーが予測する根拠の1つがこれなのである。