「Oracle Database 10g(以下,Oracle 10g)」は,5月6日に出荷開始したWindows版を加え,ほとんどのプラットフォームで利用可能となった。Oracle 10gのねらいの一つは,WindowsなどIAサーバーへの浸透を加速すること。そのために,Standard EditionにRACを標準装備するなどの戦略を打ち出した。Oracle 10gへのユーザーの反応,各プラットフォームの位置づけを日本オラクル マーケティング本部 システム製品マーケティンググループ シニアマネジャーの杉崎 正之(すぎさき まさゆき)氏に聞いた。

(日経システム構築)

――4月5日にOracle 10gを出荷開始しました。ユーザーの反応をどのように受け止めていますか。

杉崎 正之氏
杉崎 正之(すぎさき まさゆき)氏
日本オラクル マーケティング本部 システム製品マーケティンググループ シニアマネジャー
杉崎:Oracle 10gへの期待の大きさを感じています。「OracleDirect」というフリーのコールセンターがあるのですが,出荷前から「Oracle 10gを買いたい」「いつ出るのか」といったユーザーの声が多数,寄せられました。Oracle 10gは,4月5日からの3日間で数百本を出荷しました。これは,Oracle9i Databaseなど過去のバージョンに比べると,2倍ぐらいのスピードで出荷が進んでいることになります。

 ユーザーがOracle 10gに注目するポイントは大きく2つあります。一つは,ファースト・ユーザーとして採用を決めた東京証券取引所のように,グリッド環境を構築するという狙い。将来的に,ITリソースを有効活用したい,コストを削減したいというユーザーが,それを実現できるインフラとしてOracle 10gを見ています。もう一つは,Oracle 10gの採用によりデータベースの運用管理コストを削減したいというユーザーです。また5月6日には,Windows版を出荷開始しました。これにより,使いやすさや開発生産性,コストにこだわるWindowsユーザーの注目が加わったと考えています。

――WindowsあるいはIAサーバーへの注目度はOracle社内で高まっているのでしょうか。

杉崎:そのとおりです。OracleというとUNIXというイメージがあります。しかし最近,コストを最優先に置いて,UNIXからIAサーバーに移行したいというユーザーが増えています。そうした中,IAサーバーとOracleの組み合わせの信頼性を高めたいというニーズが高まってきました。こうした課題に応えるべく社内でもIAサーバーのサポートに力を入れています。

 サーバーの市場動向で言えば,汎用機のリプレース用途など超ハイエンドな領域はやはりUNIX,これは従来と変わらない。では,ミッドレンジのプラットフォームは何か――。ここで意識するのはLinuxです。あと,ローエンドはWindows。こういった住み分けがここ1年間ではっきりしてきたと感じます。

Linuxをハイエンド領域に推し進める

 ミッドレンジを担っているLinuxは,今年は基幹系システムであたりまえのように使われる領域に持っていきたいと考えています。そのために,Oracle社内でのLinuxの位置づけを一段階引き上げます。Linuxは,これまでエンタープライズといってもやはりミッドレンジが中心でしたが,これを汎用機のリプレースを意識してハイエンドな領域にも広げ,プロモーション活動や顧客サポートなどを展開する計画です。

 こうした動きの背景には,外的要因もあります。汎用機メーカーがLinuxの搭載を進めてきました。また,SUSE Linuxが日本市場に登場したり,Itaniumプロセッサ・ファミリ,IA-32e,Opteronなどが注目を集める,といった動きもあります。それにOracleが応じることで,より信頼性の高いマシンにOracleが乗っていくことになるのです。

――ミッドレンジ層のユーザーにとって,Standard Edition(SE)がRACを標準装備したインパクトは大きいのでは。

杉崎:Oracle 10gの価格戦略では,より広いユーザー層にOracleを浸透させることに重点を置きました。既に利用が進んでいるハイエンド向けのEnterprise Edition(EE)の価格は,これまでと変わりません。SEの価格も変わりませんが,クラスタリング・ソフト「Oracle Real Application Clusters(RAC)」を追加費用なしで利用可能にしました。

 RACは,日本でも870社という導入実績が示すように,非常に評価が高い。Oracle9i Databaseまでは,RACはEEのオプション製品としてのみ提供してきました。そのため,導入価格が高価になってしまい,「RACは欲しいが,やむなくActive/Standby型のHA(High Availability)構成で我慢する」というユーザーは少なくなかった。

グリッドの実現にRACは不可欠

 Oracle 10gの“売り”の一つは,統合コンピューティング「グリッド」を組み上げ,サーバーのリソースを有効活用することにあります。しかし,Active/Standby型のHA構成では,通常はStandby側のサーバー・リソースが使われない。グリッドを推し進めれば,そんな状況が許されない世界がくるでしょう。であれば,SEにRACを付けてしまおうと考えたのです。

 価格的にも魅力十分だと考えています。これまで,2CPUのマシン,2ノードでRACを構成する場合,(EEのプロセッサ・ライセンスが)3000万円かかりました。これがOracle 10gのSEでは750万円で済む。MicrosoftのSQL Serverは,HA構成(Active/Passive)でさえ750万円近くかかる。ようやくOracleも“価格が安い”と言えるようになりました。 

 さらにOracle 10gからは,RACに必要な(OSレベルの)クラスタウエアをOracleがすべて提供します。これまではサードパーティの製品が別途必要でしたが,Oracle 10gではこれが製品に同梱されている。これもRACを導入する際のコスト削減要因と言えるでしょう。グリッドを掲げたOracle 10gは,異機種間のワークロード管理をターゲットに入れています。その実現に向け,クラスタウエアを自社で出すことが必要になってきたのです。