Q7そのほか、オープンソースのメリット/デメリットを教えてください
 
 
 コスト面、セキュリティ面でのメリットが強調されがちなオープンソース・ソフトですが、「ソースコードが可視化され、しかも自由に改変できる」というオープンソース・ソフトならではの特徴も、大きなメリットになりうる要素の一つです。

 オープンソースのソフトなら、特定メーカー/ベンダーの独自仕様のシステムを導入する場合と異なり、ユーザーは広く入札業者を募集できるようになります。地方自治体においては、地元企業が入札に参加しやすくなると期待されています。また、仕様が公開されていることで、システム導入後も業者の乗り換えも容易になるため、これまで問題視されていた「安値入札+高価な随意契約」という受注形態を抑止する効果も期待できます。

 ただし、現状でオープンソースを導入するには、利用するユーザーの側にある程度の技術知識やノウハウが求められる面があることも事実です。オープンソース・ソフトには「ソースコードが最良のドキュメント」というプログラマー中心の考え方が色濃く残っています。つまり、「プログラムを見ればすべて理解できる」ことが前提で情報が流通しているわけです。このため、どうしても技術情報の提供やドキュメントの整備が後手に回る傾向があります。つまり、ユーザーが「何も分からない状態」であるなら、「ベンダーに丸投げ」という状況は変わらないわけです。

 もう一つ、最近話題になっているオープンソースの“訴訟リスク”についても簡単に説明しておきましょう。

 現在、米SCO社がIBMに対して同社のUNIX系OSであるAIXについて、「UNIX System V」ソースコードを破棄または返却し、AIXの配布を永久に停止することを求めて訴訟を起こしています。IBMからLinuxにUNIX System Vのコードが流出し、第三者に開示することを禁じているライセンス契約に違反しているというのが米SCO社の主張の概略です。

 「バザールモデル」と呼ばれる開発手法を採用し、大勢の技術者がノウハウを持ち寄って開発するオープンソース・ソフトでは、他者の権利侵害に当たるコードが混入しているかどうかチェックできないのではないかという懸念が以前から指摘されていました。今回のSCOの提訴は、そのリスクが現実に生じうることを示しています()。

 もちろん、訴訟が決着するまでは権利侵害があったかどうか、SCOの主張とIBMの主張のどちらが正しいか、といった点は分かりませんが、一時は「Linuxを使用しているユーザーに対しても使用停止を求める警告を送る」といった報道もあり、ユーザーがトラブルに巻き込まれる可能性があることは否定できなくなりました。

 そのほか、オープンソースの様々なメリット、デメリットについては、下記の関連リンクの情報も併せてご参照ください。


 こうした問題は、実のところオープンソースだから生じるという問題というわけではない。商用ソフトウエアであっても、同様の問題が生じる可能性はある。ただし、商用ソフトの場合は、今回のIBMのように、まずはメーカーに矛先が向くことになるし、その段階で解決すればユーザーには影響が及ばない可能性が高い。しかし、オープンソース・ソフトの場合は、ソフトウエア全体に対して責任を負う立場にあるのは誰か、という点が必ずしも明確ではないため、トラブルが生じた際にユーザーにも影響が及ぶ可能性がある点が異なると言えそうだ。こうしたリスクが現実的にどれほど重大なものか、リスクマネージメントという観点からその影響をユーザーが検討する必要はあるだろう。それを含め、オープンソースソフトウエアを利用する際にユーザー側には知識や技術が求められるのは間違いないと思われる。

<関連リンク>
米SCOの攻撃相手はIBMだけではない,“解決金を払うかカーネル2.2に戻れ”
(IT Pro、2003年7月9日)
オープンソース・ソフトによるシステム開発を拒む障壁
(IT Pro、2003年1月10日)
佐藤一郎「オープンソースの理想と現実」
(経済産業研究所、2003年6月4日)
オープンソース・ソフトを利用する際に法律的なリスクはある?
(『日経システム構築』2003年6月号,236ページより)<要会員登録>
エンタープライズにおけるLinux(4) テクノロジとして見たLinux(上)
(IT Pro、2002年12月12日)<要会員登録>
エンタープライズにおけるLinux(5) テクノロジとして見たLinux(下)
(ITPro、2002年12月19日)<要会員登録>
電子政府・電子自治体システムにおける「オープンソースソフトウェアの推進」に対しての マイクロソフトの方針と見解について
(2002年11月27日にマイクロソフトが発表した資料をBizTech Special「本格的に動き始めた電子自治体」に全文転載したもの)
David A. Wheeler『なぜオープンソースソフトウェア/フリーソフトウェア(OSS/FS)なのか? この数字を見よ!』(比屋根一雄・訳)
(三菱総合研究所「オープンソースと政府」、2002年8月20日)

 
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