Question オープンソース・ソフトではGPLなどのライセンス形態があり,利用する上で注意すべき点があると聞きましたが,どのような点でしょうか。

Answer GPLは自由に複製,改変,再配布できるライセンスですが,法律上の問題点はいくつもあります。ただし実際,訴訟になるケースは少ないでしょう


図1●GPLのソフトを利用する上でのポイント
GPLでは,複製,改変,頒布に関する許諾と条件が明記されている
 オープンソースのソフトは,無償で入手できますが,著作権を放棄しているわけではありません。商用のソフトと同様にライセンス契約を守ることが義務付けられます。

 オープンソースのライセンス形態はいくつかあります。例えば,Linuxなどで使われているGPL(GNU General Public License),Apacheやsendmailにおけるライセンスの基になったBSD(Berkeley Software Distribution)ライセンス,米Netscape Communicationsが開発したブラウザで採用されているMPL(Mozilla Public License),があります。

GPLでは再配布に条件がある

 これらのライセンスの中で,最も制限の厳しいGPLについて見ていきます。GPLには,(1)ソフトの複製を作り,自由に配布できる,(2)ソースコードを入手できる,(3)入手したソフトを改変したり,新しいプログラムの一部として使用したりできる,(4)再配布に際しても,これらの条件をすべて満たしている――などの条項が含まれています(原文はhttp://www.gnu.org/,日本語訳はhttp://www.opensource.jp/gpl/gpl.ja.html)。

 GPLのソフトを利用する上でのポイントは,3つあります(図1[拡大表示])。まず,(1)改変したソフトを再配布する場合には,ソースコードを公開しなければなりません。ただし,(2)私的あるいは企業内部での使用や加工では,ソースを公開する必要はありません。そして,(3)再配布後のソフトに対してもGPLが適用されます。

あいまいな部分が多いGPL

表1●GPLに対する疑問点GPLに対する疑問点

 通常,GPLのソフトに変更を加えたり,システムの中に対象プログラムを組み込んだりしたら,ソースを公開する義務が生じます。ただし,社内利用にはソース公開の義務はありません。当然,社内利用にもGPLは適用されますが,FSF(フリーソフトウエア財団)が公開するFAQ(後述)によれば,ソース開示義務の要件を満たさない,つまり再配布ではないと判断されるからです(表1[拡大表示])。

 しかし,関連会社や子会社へプログラムを提供する場合や,インテグレータとしてユーザー企業のシステム構築を行った場合には,プログラムを再配布したとみなされ,ソースを公開しなければなりません。経済産業省は,「ユーザーがインテグレータに機密保持義務を負わせて開発を依頼する場合には,第三者へソースコードを開示しなくてもGPLに違反することはない」という見解を出しています。

 GPLの対象は,「プログラムやプログラムを基にした著作物」となっています。後者は著作物の派生物(derivative work)とみなされるものです。派生物の明確な定義は非常に困難です。特に,ライブラリとプログラムとの関係はいまだに答えが出ていません。

 GPLは,米国の著作権法をベースに作られているため日本の法律に沿わない部分もあります。GPLは著作財産権に相当するものの,著作者人格権に関しては全く触れられていません。著作者人格権は日米で扱いが異なり,日本法では放棄できない権利ですが,その処理をどのようにするかも明確になっていません。また,たとえ法律上の概念をはっきりさせたとしても,どこの国の法律を適用させればよいのか分かっていません。

 さらに,GPLは特許法などに対応していません。ソフト特許を持つ改変者が意図的にそのアルゴリズムを加えても,GPLではその特許権を排除できません。また,改変者が知らず知らずに特許を侵害している危険もあります。

 このようにGPLには法律的にクリアになっていない点が多くあります。明らかにGPLに違反している場合は,ソフトの著作権者から警告状が来る可能性があります。GPLに関するトラブルを避けるために,FSFからも「GNU GPLに関して良く聞かれる質問(http://www.gnu.org/licenses/gpl-faq.ja.html)」が出ています。

 しかし,自社内部で使う場合には「一般ユーザーが訴えられるリスクはそんなに大きくないのではないか」(岡村・堀・中道法律事務所 岡村久道弁護士)という見方もあります。仮に訴訟へ発展したとしても,まず最初に,既存の大手ユーザーを訴えると考えられるからです。特許侵害のリスクに関しても,経済産業省の見解は「自社内部の利用ならばリスクは高くない」としています。その理由には,既に多くのユーザーに流通しているGPLのソフトはそうしたリスクを回避していることを挙げています。ただし,商業的な利用には,やはり十分注意しなければなりません。

日本政府,対策へ動き出す

 こうしたなか,日本政府は政府調達にオープンソースを積極的に検討する方針も打ち出しており,GPLの不明確な部分を無視できない状況です。経済産業省では,法曹界や企業から専門家を集め,GPLを中心とするオープンソース・ソフトに関する問題を整理する研究会を設立しました。2003年5月中に「オープンソースソフトウェアの現状と今後の課題について」という報告書を公開する予定です。ここでは初心者向けのGPLガイドラインや,オープンソース・ソフトの導入検討ガイドラインが示されます。また2004年3月までに,GPLに対応した契約モデルを発表する予定です。

(本誌)