日立総合計画研究所・編

 プログラミング言語で記述されたソフトウエアの設計書を「ソースコード」と呼びます。このソースコードを無償で公開し、誰でも自由に改良・再配布が行なえるようにしたソフトウエアやその開発方式を総称して「オープンソース」と呼びます()。

 OSI(pen Source Initiative)による定義「The Open Source Definition」を満たすものを「オープンソース」と呼ぶ場合が一般的ですが、「ソースコードを無償公開」して「誰でも自由に改良・再配布が行なえる」ことを指して、「オープンソース」という言葉が使われるケースも広まってきています。

  オープンソース自体は特に目新しい概念ではなく、例えば1980年代にはCERN httpd(WWWサーバー)、sendmail(電子メール)などのソフトウエアが開発・改良され、インターネットの普及に貢献してきました。最近ではLinux(リナックス)の急速な普及によって、再び注目が集まっています。Linuxは1991年に、フィンランドの大学院生だったリーナス・トーバルズ氏が開発したコンピューターのOS(基本ソフト)です。オープンソースは「ソースコードを公開・共有し、誰もが自由にソフトウエア開発に参加できるようにすることで、より良いソフトウエアが生まれる」という思想に基づいています。Linuxもオープンソースにしたことで、世界中のプログラマーの評価にさらされ、改良を重ねたことで、高性能かつ安全性の高いソフトウエアとなったといわれています。

 現在、パソコン用OSではマイクロソフト社のWindowsが圧倒的なシェアを握ってますが、欧州を中心に各国政府や国際機関がLinuxへの切り替えを検討する動きが広がっています。ドイツではシュバエビッシュハル市が2003年中に業務システムをLinuxに全面的に切り替えることを決定、さらに2003年6月にはミュンヘン市が1万4千台の業務用パソコンをLinuxに切り替え、話題となりました。

 欧州各国政府のオープンソース採用の背景には、「政府・公共機関には安全性や透明性が確保されるべきである。特定の企業への依存を避け、ブラックボックス化したソフトウエアを使用しないことが、安全性や透明性の確保に欠かせない」という思想があると言われています。マイクロソフトもLinuxの攻勢を受け、これまで非公開だったWindowsソースコードを政府・地方自治体向けに無償公開する「ガバメント・セキュリティー・プログラム(GSP)」を開始しました。既に英国、ロシア、中国などがソースコードの提供を受けています。

  国内では、2003年6月に総務省が「セキュアOSに関する調査研究会」の開催を発表しました。この研究会の目的は「電子政府・電子自治体等のシステムへのオープンソースOS導入の在り方の検討に資することを目的として、オープンソースOS及び非オープンソースOSについて、セキュリティ面、運用面、コスト面等の様々な観点から、そのメリット・デメリットの客観的・中立的な評価を実施する」ことです。

 既にオープンソース・ソフトによるシステム構築を進めている自治体(山梨県東京都目黒区など)もあります。また、人事院は全省庁の人事システムについてオープンソースも視野にいれた計画をしており、今後、日本の政府・地方自治体においてもオープンソース導入の動きが活発化すると考えられます。

オープンソース採用には、利用者の理解が欠かせない

 ただし、オープンソース・ソフトの利用にあたってはセキュリティやコストなどについて十分に検討を行い、利用者自身がオープンソースのメリットやデメリットを理解することが求められるでしょう。

一般に「世界中のプログラマーの評価にさらされ、改良を重ねた」という理由で、オープンソースの方が商用ソフトウエアに比べて安全性が高いと評されてはいますが、必ずしもそうとは言い切れません。オープンソースは攻撃者側もソースコードを検証し、セキュリティホールを発見できるので、利用者が常に最新バージョンを入手するなどのメンテナンスを怠れば、逆にリスクは高くなるからです。現時点でLinuxなどオープンソースでの被害が目立たないのは、マイクロソフト社が提供するWindowsなどの商用ソフトウエアを攻撃した時の方が被害が大きいため、ハッカーの標的となりやすいからと考えるのが妥当でしょう。

また、オープンソースの採用が進められているもう一つの理由としてIT関連コスト削減が求められていることが挙げられます。しかし、オープンソースは初期費用こそ無料同然ですが、保守費用については一概に安価とは言えません。オープンソースは不良が発生した場合も、自己責任において対処するのが原則ですから、利用者側の技術力が問われます。現時点で政府・地方自治体職員が独力でOSのソースコードを理解し、問題に対処するは現実的に困難といえるので、結局はディストリビューター(Linux製品の開発、提供を行う企業)やベンダーに依存することになり、商用ソフトウエアと同程度の保守費用が発生しかねないのです。