■東京・目黒区役所は、2003年1月6日の新庁舎移転に合わせて300台のパソコンを新規に導入し、庁内LANを整備した。その際、ファイルサーバーやメールサーバー、グループウエアサーバー用として、目黒区役所はLinuxプラットフォームを選択した。
■コスト面やセキュリティの観点からオープンソース・ソフトウエアの導入に注目が集まる昨今だが、逆にオープンソースであるが故にセキュリティ面に不安があるという声もある。“石橋を叩いても渡らないほど慎重”とも言われる自治体が、Linuxプラットフォームという橋を渡ることになった決め手は何だったのか。その背景と導入について、詳しくリポートする。(文:安藏靖志=企画サイト編集部、写真:佐藤久)

※ この記事は6月11日にウェブサイト「BizTech Special:Linuxソリューション」に掲載されたものです。


■庁内LANへのニーズが高まる中で新庁舎への移転が決まる

東京都目黒区の地図
   

 東京都目黒区は2003年1月6日、目黒区上目黒に新庁舎をオープンした。目黒区役所の旧庁舎が老朽化していたことや、手狭になっていたことから、破たんした旧・千代田生命相互会社の本社ビルを2001年2月に取得したものだ。これによって従来、6カ所に分かれていた事務所が一つにまとまっただけでなく、目黒区保健所や東京都目黒都税事務所も合わせて新庁舎に移転した。

 1月6日の新庁舎移転に伴ってWindowsパソコン300台を各課に新たに配置し、日本IBMのLinuxサーバー「xSeries」によってファイル共有やメールシステムを稼働させた。この8月には、そのLinuxプラットフォーム上にパナソニック ソリューションテクノロジーのグループウエア「GlobalFamily」の稼働も予定している。

伊東氏

目黒区
経営企画部情報課 課長
伊東桂美氏

 

 目黒区役所では、以前からメインフレームで住民基本台帳や税金、国民健康保険など28業務に関する処理を行う基幹業務システムを稼働していたほか、クライアント/サーバーシステムで介護保険の処理などを行っていた。しかしこれらは区役所の本来業務をこなすためのシステムであり、事務連絡といった各種情報のやり取りのためのシステムやネットワークは存在していなかった。個別のパソコンや部課内でのLANなどはこれまでも存在していたが、事務系ネットワークの構築は、Linuxサーバーを中心とした今回のシステムが初めてとなる。

 システム導入の経緯について、目黒区 経営企画部情報課 課長の伊東桂美氏は次のように語る。

 「政府が2000年11月にIT基本戦略を発表しましたが、その頃、当然、庁内LANの整備が必要だという議論が出ていました。旧庁舎でもごくごく小さなLANはありましたが、本格的な全庁LANは整備されていませんでした。そんな折りに新庁舎移転の話が出てきたので、そのタイミングを逃せば整備ができないだろうと考え、庁内の情報化に関する検討が始まったのです」。

 こうして目黒区役所の情報化に関する検討が進み、2002年11月に決定したのが「目黒区情報化ビジョン」だった。その柱として打ち立てられた3つのキーワードが、『全庁LANの整備』『必要な職員への一人一台のパソコンの整備』『グループウエアの導入』であった。