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写真1
写真1●年間ベースで売上高が1兆円規模になったことを宣言するソフトバンクの孫正義社長(2月9日の決算発表)
 「年間に換算すると売上高1兆円突破は確実」――。ソフトバンクの孫正義社長は高らかに宣言した(写真1)。

 2月9日の2004年度第3四半期の決算発表で連結売上高が2500億円を超えたことを受けての発言である。売上高1兆円というと,通信業界でいえばざっとNTT東日本やNTT西日本の半分。NTTコミュニケーションズに匹敵する規模である。

売り上げも人員も2005年度に倍増へ

 ADSLサービス「Yahoo! BB」やIP電話サービス「BBフォン」のユーザー拡大による収入増も効いているが,伝統ある固定通信事業者の日本テレコムを買収し,100%子会社として連結に加えたことが大きく寄与した。

 売上増にあわせて人員面も拡大していく。買収した日本テレコムの人員に,新卒採用や他社からの転職組が加わることで,従来の約5000人から最終的に約1万人まで倍増する見通しだ。グループの“本丸”も用意した。今年の2月にはソフトバンク本社を東京の水天宮から汐留に移し,日本テレコムも同じビルに収容した(写真2)。

写真2
写真2●東京・汐留のソフトバンク新本社ビル
 ソフトバンクが2001年にYahoo! BBで通信業界に殴り込みをかけた時,通信業界の関係者が「どうせ孫さんはすぐにあきるだろう」「スピードネットと同様に頓挫するさ」とことごとく指摘した。ところがソフトバンク・グループは,あっという間に,NTT,KDDIに続く第3の通信事業グループを築き上げた。

ワンマン運転で本当に走っているのか

 孫社長は決算発表と新サービスの発表をほとんど一人で取り仕切る。実際に機器を操作したり,サービスの利用法を示しながら説明する。昨年夏,日本テレコムが新型固定電話サービス「おとくライン」を発表した時も,同席した倉重英樹社長はほとんど言葉を発しなかった。

 発表会場で孫社長は記者やアナリストの問い掛けに,質問者を見据えながら回答する。営業数字やユーザー数の推移などすべてが頭に入っているのか,メモを見たり周囲に助け舟を求めることはほとんどない。つまり,はた目には孫社長がソフトバンク・グループの通信事業者をすべて取り仕切り,孫社長で完結しているように見える。

 しかしこれは現在の同社の実態を表してはいない。ソフトバンク・グループには,通信業界や金融,メディアや流通業などを出身母体とする仕事師が何人もいる。ソフトバンクBBやソフトバンク本体,グループ会社の幹部として,孫社長を陰に陽に支える。その証左として,グループの通信事業会社における孫社長の役員職は意外に少ない。ソフトバンクBBとヤフー,日本テレコムと携帯事業会社のBBモバイルぐらいである。

 こうした人材固めは,東京電力と米マイクロソフトとともに始めた無線LANによるブロードバンド・サービスの事業会社「スピードネット」のころにさか上る。それはYahoo! BBを開始する前後で加速した。東京めたりっく通信グループを買収したときも,多くの人材を取り込んでいる。

幹部の兼務で意思決定を迅速化

 ソフトバンク・グループの組織上の特徴は,一人の幹部が複数の肩書きを持っていることと言える。例えばソフトバンク・グループの携帯部門を取り仕切るソフトバンクBB宮川潤一取締役は,携帯事業会社BBモバイルや日本テレコムの固定電話部門の役員を兼ねている。ほとんどの幹部がこうした兼務をこなしている。NTTで言えば,グループ内で頻繁に行う人事異動がこれにあたるのだろう。

 こうした組織作りによって,意思決定の迅速化を図っている。ある通信機器メーカーは「ソフトバンクとの商談では,価格の要求は厳しいが,現場の幹部が納入期限や納入額をスパッと決めてくれる。NTTグループは誰に権限があるのか分からない。さらに買ってくれると思ったら,実は決まっていなかったりするなど,あいまいなところが結構ある」と語る。

 もっとも孫社長自身も現場に任せきりというわけではない。「チップ・ベンダーとの話し合いから孫社長が加わり,機能や価格で議論する」(ソフトバンクBBの技術部門幹部)という。

そしてソフトバンクはどこへ行く

 次々と会社を買収し,その人材を活用するソフトバンク。この2月には,英ケーブル・アンド・ワイヤレスの日本法人の買収作業が完了。社名を日本テレコムIDCとして傘下に収めた。

 短期的にはソフトバンクBBと日本テレコム,日本テレコムIDCの3社の統合という課題がある。孫社長は本誌の「6月にも統合するのでは」との問いに対して,「遅かれ早かれ一つに統合していくのが自然な流れだ」と話している。ただ時期については「方法やタイミングについては一長一短がある」として明言を避けた。

 そして中期的にはやはり携帯電話事業への参入がある。売上高1兆円規模の通信事業者に成長したソフトバンクに唯一欠けているピースであるからだ。

 携帯電話への参入の遅れは,固定電話の事業にも影響する。例えば,KDDIは4月1日に携帯と固定を融合させたFMC(fixed mobile convergence)のサービス像を検討する専門部署を設置。FMCへの舵を切り始めた。NTTドコモも遠からず,NTTグループ内でのFMC戦略を打ち出してくることだろう。

 韓国のWiBroのように無線LANを利用した“ブロードバンド携帯電話”で大逆転を図るシナリオもささやかれている。しかしこれも携帯電話と同様に総務省の方針が絡んでくる。

 そして長期的には,さらなる売り上げ増を目指して海外への展開を考えるのではないだろうか。

 こうした状況下で,やはりボーダフォンとの関係が注目される。「携帯電話しか持たないボーダフォンと固定の幅広い品揃えを持つソフトバンクとの相互補完効果は大きいはず。まずはMVNO(仮想移動通信事業者)でネットワークを相互に利用させるのではないか」(通信事業者幹部)との噂が絶えない。

(市嶋 洋平=日経コミュニケーション

【緊急連載・ソフトバンクはどこへ行く】記事一覧
●(1) 孫正義社長が800MHz帯にこだわる理由
●(2) それでも消えないボーダフォン買収の噂
●(3) 新たな主役「おとくライン」を巡る騒動
●(4) 存在感に乏しいFTTH,次の一手は
●(5) 意外に知られていない「1兆円企業」の人と組織