1.7GHz帯の携帯電話事業の実現に向けて事業者間の参入レースが活気を呈してきた。イー・アクセス子会社のイー・モバイル,ソフトバンクBB子会社のBBモバイルに続いて4月27日にはボーダフォンも実験用無線局免許を申請した(関連記事)。その翌日にはBBモバイルが実験局本免許を取得している(関連記事)。

 それにしてもソフトバンクBB。やけに静かになってしまったような感がある。2004年後半から800MHz帯の周波数割り当てを巡って,新聞への意見広告を出したり総務省に対して行政訴訟を起こしたりした,あのソフトバンクBBがである。

 2月に800MHzの無線局免許の申請を却下された後も,ソフトバンクBBの孫正義社長は「徹底抗戦」を明言するなど,矛を収めた気配はなかった(関連記事)。ところが,ソフトバンクBBは総務省に対する行政訴訟を3月にひっそりと取り下げている(関連記事)。ソフトバンクBBにいったい何が起こったのだろうか。

 実は,業界内にはびこる“ある噂”がソフトバンクBBに影響を与えたと言われている。それは「1.7GHz帯に割り当てるのは新規参入事業者から1社,既存事業者から1社」という噂だ。

 総務省は,2006年4月までに1.7GHz周波数帯を携帯電話事業に開放することを明らかにしている。その周波数幅は上り/下り合わせて70MHz。帯域幅から見て,割り当てられるのは2社になる見込みである。

 2004年10月から8回にわたって開催された総務省の研究会では,「1.7GHz帯は新規事業者2社に割り当てるべき」との意見が出された(関連記事)。この時点で新規参入を目指すのはイー・アクセスとソフトバンクBB。800MHz帯で総務省と争ったソフトバンクBBも,1.7GHz帯での事業参入は安泰かと思われた。

 しかし1.7GHz帯の参入をもくろむ既存事業者のNTTドコモとボーダフォンも「我々にも新たな周波数が必要」と強く主張。そこで落としどころとして総務省が「新規1社,既存1社」の方針を固めたというのである。もしこれが事実なら,ソフトバンクBBも安閑としていられない。同社の宮川潤一取締役も「仮に新規1社だとしたら総務省とケンカをしている場合ではない」と危機感を募らせている。

 当の総務省はこの噂を完全に否定。「方針はまだ決まっていない」としている。しかし業界内では,依然としてこの噂がまことしやかに語られているのも事実。800MHz帯の結末について孫社長はいまだに納得していない様子だが,携帯電話事業に参入できなければ元も子もないとばかりに,今は口を閉ざしているのが実情のようだ。

 総務省の免許方針案は7月にも公表される見込み。そこで新規1社,既存1社という噂が本当かどうかが明らかになる可能性が高い。

(安井 晴海=日経コミュニケーション 副編集長)