ソフトウエア開発ツール市場でマイクロソフトに押されていたボーランド(http://www.borland.co.jp/)が,本格的な反撃に打って出た。Linux向けでは初めてのビジュアル開発ツール「Kylix(カイリックス)」の日本語版を5月18日から出荷(英語版の出荷開始は3月7日)。これに続いて6月に,Windows向けビジュアル開発ツールの新バージョン「Delphi6」英語版を投入する。KylixとDelphi6はソフトウエア部品などが互換であり,これらのツールを使って開発したアプリケーションは再コンパイルするだけでWindowsとLinuxのどちらででも動く。

米ボーランドのソンヒル氏 Kylix日本語版の出荷開始に合わせて来日した米ボーランド・ソフトウェアのサイモン・ソンヒル バイスプレジデント兼RADツール事業部門担当ジェネラル・マネージャに,新製品投入の狙いなどを聞いた。日経コンピュータ記者との一問一答は以下のとおり。

日経コンピュータ 3月から出荷を始めた英語版Kylixの売れ行きはどうか。

ソンヒル氏 とても良い。出荷本数は言えないが,期待通りの出足と言える。とくに欧州が好調だ。

 Kylixには2種類の製品があるが,標準版の「Desktop Developer」よりも,Webアプリケーションを開発できるサーバー版「Server Developer」のほうが良く売れている。これは,LinuxがWebサーバー分野で受け入れられているせいだろう。

日経コンピュータ Delphiを使っている開発者は全世界で100万人と聞いているが,Kylixを使う開発者は何万人になると予想しているか。

ソンヒル氏 われわれの調査では,Delphiユーザーの30%がLinuxに関心をもっている。別の調査では,マイクロソフトの「Visual Basic(VB)」を使っている開発者の30%がLinuxに関心をもっているという結果が出ている。これらの開発者は,今後2年以内にLinux用ソフトウエアの開発を始めるだろう。Kylixによって,Linux向け開発ツール市場を制覇したいと考えている。

日経コンピュータ Kylixの無償配布版「Open Edition」を今夏に公開すると聞いている。標準版と機能面でどのような違いがあるのか。

ソンヒル氏 Open Editionの開発対象は,オープン・ソースのライセンス規約「GPL(GNU Public License)」に従うソフトウエアに限定される。商用アプリケーションの開発には使えない。これが最大の違いだ。

 機能的には,標準版とそれほど大きな違いはない。コンパイラは同じだし,付属するソフトウエア部品もほぼ同じだ。ただ,開発環境が備える機能は標準版よりも少なくなる。

日経コンピュータ オープン・ソース専用の開発ツールを提供することにしたのは,なぜか。

ソンヒル氏 当社がオープン・ソースという市場で活動する意思があることをアピールするためだ。ボーランドが後押しして,Linux開発者のコミュニティを育成したいと考えている。すでに,Kylixで使えるオープン・ソースのソフトウエア部品を,当社の開発者コミュニティ向けに無償で公開している。

日経コンピュータ Delphiはいまでも新規ユーザーを獲得できているのか。

ソンヒル氏 現行バージョンのDelphi5を出した後は横ばいだった。今回発表したDelphi6はLinux対応なので,ユーザーがかなり増えると期待している。

 また,マイクロソフトはVBに関する方針をコロコロ変えてユーザーを怒らせているので,VBからDelphi6に乗り換える開発者も多数出てくるだろう。

日経コンピュータ マイクロソフトの新しいオブジェクト指向言語「C#」をどう評価しているか。

ソンヒル氏 マイクロソフトがC#によって何をしようとしているかを考えることが重要だ。現在の「Visual C++」は複雑だがパワフルな言語,VBは簡単だがパワー不足だ。C#はその中間で,「簡単だがパワフルな言語」と位置づけているのだと思う。要するにC#は,Javaの市場を狙うものだ。

日経コンピュータ C#に対応した開発ツールを製品化する予定はあるか。「検討中」と報じられているようだが。

ソンヒル氏 現時点では,「まだ何も発表していない」としか言えない。C++とJavaのブレンドという意味では面白いが,C#に技術的な優位性があるのかどうか,市場で受け入れられるのかどうか,こういった点を慎重に見ていく必要がある。

(聞き手は中村 正弘=日経コンピュータ

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