「03-5210-xxxx」という電話番号を見れば,そのユーザーがどの地域のどのエリアに住んでいるのかが大体分かる。「03」は東京23区内。さらに細かく見ると,「5210」という局番は東京都千代田区にあるNTT東日本の九段局がユーザーに割り当てていることまで調べられる。

 このように現在の加入電話は,電話局の単位で電話番号を管理している。そして,移転によって自分の回線が収容されている電話局のエリアが変わると,全く新しい電話番号になってしまう。

携帯と同様に全国で使える「050」

 IP電話の時代は,電話番号の運用方法が大きく変わる。一つは「050」で始まるIP電話専用の番号である。「090」で始まる携帯電話と同様,最初の3ケタで分かるのはエリアではない。「IP電話」というサービスを区別している。

 「050」番号は,携帯電話と同様,全国どこに行っても同じ番号を使い続けることができる。現時点ではあまり聞かないが,加入電話を解約し「050」のIP電話1本に絞る場合は,NTT地域会社に移転のメッセージを流してもらうことも可能だ。

市外エリアのどこでも通用する0AB~J

 IP電話で使える二つめの番号は,東京23区内であれば「03」で始まる,いわゆる「0AB~J」番号を使う場合である(注1)

注1:なぜ0AB~Jという呼ぶかというと,電話番号は「0」から始まって「ABCDEFGHJ」までの9ケタの合計10ケタであるからだ。ちなみに,アルファベットの「I」は数字の「1」と似ているため入っていない。ここから先は,03の番号体系を0AB~Jと呼ばせていただく。

 
 IP電話で0AB~J番号を使う場合は,加入電話や050番号の電話と微妙に異なる。例えば,「03」番号のIP電話の場合,「03」のエリアに該当する東京23区内であればどこに引っ越しても,電話番号が変わらない。IP電話では,東京23区であれば「03」や大阪市内であれば「06」,横浜市内であれば「045」。番号を管理する単位を「03」や「06」といった市外局番に一致させているからだ。

IP電話は“1歩も動けない”ケースも

 ただし,混乱させて恐縮だが,IP電話であっても市外局番のエリア内での移動で電話番号が変わるケースがある。むしろこの方が多いかもしれない。

 既存の加入電話の番号を番号ポータビリティの制度を適用してIP電話でも使い続ける場合である。現在利用している場所から隣の部屋や隣のビルなど1歩でも動くと電話番号が変わってしまう。同じ電話局のエリア内であってもである。

 これは郵政省(現・総務省)で番号ポータビリティの制度を策定した際,「同じ場所での通信事業者の乗り換えに適用する」と決めたからだ。つまり,「03や06などの番号エリア内で移動しても番号が変わらない」という前述のケースは,IP電話を導入する際に事業者から新たな0AB~J番号を割り当ててもらった場合に限られる(注2)。ご存じの方も多いかとは思うが,NTTコミュニケーションズや平成電電など,東西NTT以外の事業者も独自に0AB~J番号を保有している。

注2:電話局のエリア内での移転であれば,多少面倒だが番号を変えなくて済む“裏技”がある。まず電話をいったん加入電話に戻して,場所を移転。そして,再度IP電話を契約し,加入電話からIP電話への番号ポータビリティを申請すればいい。しかしとても面倒だ・・・

0AB~Jを移動させてもよい時代ではないか

 IP電話はIPのネットワークでつながっていれば,東京都内だけでなく日本全国,さらに世界中どこでも電話が利用できる。これを便宜上,IP電話事業者側のサーバーで「このIPアドレスのユーザーは電話番号が『03-5210-xxxx』」というようにひも付けているだけである。

 ここからはあくまでも筆者の私見であるが,0AB~J番号を移動しても使えるようにすべきではないかと考える。もはやエリアで縛る必要はないのではないだろうか(注3)

注3:現状は,総務省が管轄する「電気通信番号規則」で,0AB~J番号は定めたエリア内で利用する「地理的識別」が義務付けられている。このほかIP電話で0AB~J番号を使う場合,「音質を保つため遅延を抑える」など合計8項目が定められている。

 「エリアに縛られたくないのであれば050番号を使えばいいではないか」という意見もある。筆者も賛成だ。個人用の電話機端末やパソコンに050番号を割り当れば,直通で電話をかけることができる。しかし,既存の0AB~J番号を何年も使っているユーザーにとっては,050番号よりも0AB~J番号に愛着がある(関連記事)。企業の代表番号であればなおさらだ。番号が変わったことを周囲に伝えるのも疲れる。

 なぜ筆者がこのような変なことを言っているかというと,今後は固定電話と携帯など移動電話の境目がどんどん無くなっていくからだ。そういった時代になっても,0AB~J番号を固定させるべきだろうか。市内と市外電話,携帯電話とIP電話という,NTTグループの区割りと一致したままでいいのだろうか。

 もっとも,NTTコミュニケーションズは,英BTなど世界の通信事業者と固定電話と移動電話の融合サービスについて話し合いを始めた(関連記事)。また,日本ではNTTドコモなど携帯電話各社が社内・社外を問わずに同じ携帯電話端末を使う「モバイル・セントレックス」のサービスを準備中だ(緊急特集「モバイル・セントレックス」)。ユーザーの興味は極めて高い。

番号の本籍地と考えればいいのでは

 こういう考え方はできないだろうか。例えば,東京から大阪に転勤になっても,東京23区の「03」番号を本来「06」番号のエリアである大阪市内で使い続けられる。大阪の転勤から東京に戻ってきても同じ番号のままである。つまり,最初に電話サービスを契約したエリアの番号を“本籍地”のように使い続けることはできないだろうか。

 引っ越しが多いユーザーは,友人などに転居先の電話番号を通知するのは面倒な作業である。自動車のナンバー・プレートのように,ユーザーの判断で移転しても使い続けることができてもいいのではないか,と考える(もちろん本来は居住地域のナンバーに変更し,きちんと税金を納めるべきではあるが・・・・)。

結局は料金の問題に行き着く

 こういった電話番号の議論は,最終的には料金の問題に行き着くと筆者は考える。現在は番号をみれば,相手への通話料金がどの程度か想像ができる。例えば,大阪市に引っ越してきて,大阪市の友人に東京「03」の番号を教えたら,不審に思われるかもしれない。「東京までの割高な料金を支払うのか」と敬遠されるかもしれない。「03」を余分にダイヤルする手間もある。

 しかし料金の問題については,「番号で変わる」という前提が崩れ始めている。IP電話がその張本人である。全国一律どこにでも3分8円程度の料金でかけられる。

 筆者は自宅でIP電話を使っている。家のIP電話からは,料金や時間をまったく気にせず電話をかけるようになった。海外も同じである。米国ならば1分当たり2.5円とむしろ海外の方が安い場合もある。IP電話が増えれば,距離に応じた課金の概念がなくなる。もしかしたら時間による従量課金の概念も衰退するかもしれない。そしてソフトバンクをはじめとする新規事業者の参入など,さらなる競争で携帯電話の通話料金が劇的に下がることがあれば,0AB~J番号の執着も薄れるのかもしれない。

 筆者は,日経コミュニケーションの8月1日号で,「IP電話番号,必ず抱く八つの疑問に答える」という記事を執筆した。本誌の読者の方には,記事を読まれた方もおられるだろう。記事内では以下の8の疑問を厳選。関係する方々への取材を基にひもといた。

Q1. 「050」と「03」のIP電話はつながるの?
Q2. 「03」や「06」を使うには音声専用回線が必要?
Q3. 東京でIP電話を引けば全国の拠点で0AB~Jが使える?
Q4. ソフトフォンや無線IP電話でも0AB~Jが使える?
Q5. どの事業者のIP電話でも今の番号を継続利用できるの?
Q6. 引っ越しても同じ番号を使い続けられる?
Q7. 一つのIP電話機で,複数の電話番号を持てる?
Q8. 東京「03」にかかってきた電話を大阪に転送すると違反?

 解説は本誌8月1日号に譲るが,答えをごらんになりたい方はこちらのページを参照していただきたい。

(市嶋 洋平=日経コミュニケーション)