2月25日に公開した「半年で変わる企業ネットの“常識”」でアンケート調査を実施したところ,1705人の読者から回答をいただいた。ここでは,読者の関心が最も高いと思われるIP電話に対する回答を中心に,その結果をご紹介したい。

番号を使い続けたいが,サービスの選択肢は限られる

 アンケートでは,まず外線発着信に使うIP電話サービスについて尋ねた。

Q3.会社の電話がIP電話に変わることによって電話番号が「050」から始まるIP電話専用番号に変わる可能性があります。あなたは050番号に変わることに抵抗がありますか?
 
グラフ1●「あなたは050番号に変わることに抵抗がありますか?」

 今のIP電話サービスは,050から始まるIP電話専用の番号を使うサービスがもっとも多い。こうした050番号を使うIP電話サービスは,現在の加入電話で利用している電話番号を引き続き使うことはできない。この点について読者がどう考えているのか,調査では上記のように尋ねた。結果は,「抵抗ある」の回答が4分の3を占めた(グラフ1)。

 IP電話サービスの導入メリットは,回線基本料や通話料を削減できることにある。しかし,現在利用している電話番号をそのまま使えないようでは,そうしたメリットも大きな魅力とはならないようだ。企業がIP電話を導入するには,現在利用している電話番号をそのままIP電話に移行できることが不可欠の条件と言える。

 そのためには,「番号ポータビリティ」に対応したIP電話サービスを選ぶ必要がある。番号ポータビリティとは,電話会社が変わっても現在利用している電話番号を引き続き利用できる制度のこと。番号ポータビリティは固定電話同士であれば特に意識しないで利用できる。例えば,NTT東日本からパワードコムの「東京電話」に移行した場合,現在利用している電話番号は東京電話に移行後でもそのまま利用できる。同じように,市外局番から始まる電話番号を使うIP電話サービスなら,現在の固定電話で利用している電話番号をそのまま移行できる。

 しかし,現時点では番号ポータビリティに対応したサービス=市外局番を使ったサービスは少ない。ほとんどが050番号によるサービスとなっている。番号ポータビリティ対応のサービスとしては,NTT東西地域会社(東西NTT)の「法人向けIP電話サービス」,フュージョン コミュニケーションズの「直収IP固定電話サービス」,メディアの「Mライン」,モーラネットの「モーラフォン」,フォーバルの「FTフォン」,アイピートークの「IPTalk Pro」,大塚商会の「O-CNETフォン」があるだけだ。

 数が少ない上に使い勝手もいま一つ。いずれのサービスも,格安なブロードバンド回線サービスであるADSL(asymmetric digital subscriber line)では利用できない。通信品質が回線状態に依存するADSLは,今の加入電話と同等の音声品質では提供できない可能性があるからだ。対応する回線サービスは,企業向け通信サービスの広域イーサネット・サービスまたはFTTH(fiber to the home)に限られる。

 広域イーサネットは,例えばNTT東日本のメトロイーサで1拠点当たり月額26万4000円(100Mビット/秒の品目)かかる。このため回線利用料が高くなり,よほど通話トラフィックの多い大企業でない限りはコスト削減効果を出せない。ADSLにつぐ格安なブロードバンド回線であるFTTHなら月額4000円台から利用でき,導入の敷居も低そうだ。しかし,現時点では有線ブロード・ネットワークスが提供するFTTH以外に選べない。最も提供エリアの広いBフレッツは,対象外なのだ。

 こうしてみると,ほとんどの企業が通話料や回線基本料の削減と同時に番号ポータビリティを実現したいと考えていても,現在のIP電話サービスでは「大企業(または大規模拠点)」または「首都圏エリア」という限られた企業にしか,その望みはかなわない。もちろん,今後の東西NTTの対応次第で,状況は一変する。ちなみにNTT東日本は現時点で,フュージョンやメディアのように法人向けIP電話サービスを卸売りする考えはないそうである。「ニーズがないと判断している」ことが理由だ。

思いのほか使われているが,「音質は悪化」が3割

 次に,社内LANでのIP電話の利用状況を尋ねた。

Q4-1.あなたの会社の電話機は,IP電話機(電話線の替わりにLANにつなぐ電話機)を使っていますか?
 
グラフ2●「あなたの会社の電話機は,IP電話機を使っていますか?」

 今,PBX(構内交換機)のリース切れを控えた企業は,「新しいPBXに置き換えるべきか」「内線網をLAN/WANに統合できる“IP-PBX”に置き換えるべきか」「内線電話システムを丸ごとアウトソーシングできる“IPセントレックス・サービス”を導入すべきか」「そのまま使い続けるか」――といった選択肢で頭を悩ましていることだろう。IP-PBXとIPセントレックスでは,LANポートを備えたIP電話機をつなげられる。上記の質問は,IP-PBXやIPセントレックスの普及状況を知る狙いから尋ねた。結果,すでに1割以上の回答者がIP電話機を使っていた(グラフ2)。

 「12.9%」という数字は,筆者にとっては意外と大きな数字だった。理由は,IP電話機の導入は何かと面倒で,そんなに導入されていないのではないかと考えたからだ。

 IP電話機の利用環境は既存の電話機よりも悪い。既存の電話機は,必ず1本の電話線でPBXと直接つながる。このため自分の電話機でやり取りしてる会話以外のトラフィックが,つながっている電話線を流れることはない。電話線の品質が劣化していない限り,音声が劣化することもない。

 一方,IP電話機とIP-PBX(またはIPセントレックス・サーバー)は,間に何台かのネットワーク機器を介して接続する構成になる。このため,ほかのユーザーの通話トラフィックやパソコンでやり取りするWebやメール,業務アプリケーションのトラフィックからの影響は避けられない。

 既存のLANにIP電話機をそのままつなぐだけなら導入は簡単だが,こうしたことを考慮するとLANを見直さざるを得ない。通話トラフィックを優先的に転送処理できるLANスイッチを使っているか,もともと品質が低かったり,劣化したLANケーブルで伝送品質が落ちていないか,LAN構成は複雑になっていないか,といったチェックが必要になる。LANを改修しようとすると,場合によっては,PBXを置き換える以上の負担が発生することもある。

 調査では,IP電話機を導入済みの読者に対して「外線番号」「内線番号」「音声品質」「操作性」「機能」の各項目での使い勝手についても尋ねた。細かい数字については,資料編をご覧いただきたいが,音声品質に関しては,「悪くなった」との回答が34.1%も占めた。果たして,エンド・ユーザーの評価は正直なのか,なかなか厳しいのか。

 アンケートを実施した記者の眼でちらっとアナウンスさせていただいたが,これらのアンケートの結果は,日経コミュニケーションで3月22日号から始まる連載で引用する予定だ。3回にわたって「企業ネットワークの“新”常識」を検証する。テーマは,第1回が「WAN」,第2回が「電話」(掲載予定は4月12日号),第3回が「モバイル」(同4月26日号)である。現在は第2回の「電話」を執筆している最中。アンケート調査では電話としてのIP電話を尋ねたが,連載では「電話の置き換え」で終わらない“新”常識を提案してみたい。

(加藤 慶信=日経コミュニケーション)

※ 他のアンケートの結果は資料編で紹介している。