ネットワーク業界にかかわる読者なら,企業ネットの“常識”はわずか半年で通用しなくなることを肌身で感じているに違いない。筆者は2年半前の2001年7月,日経コミュニケーションにおいて「企業ネットに巣くう“常識”を切る」というタイトルで特集記事を執筆した。2004年2月の今,この特集を読み返すと何とも間抜けなのである。

 記事中では3つの“新・常識”を見出しに掲げた。その中の1つに『「インターネットVPN格安説」は幻想,用途に応じIP-VPNと使い分ける』と見出しを付けた記事がある。IP-VPNとインターネットVPNの通信コストを,最大128kビット/秒で通信できるディジタル専用線「DA128」をアクセス回線として,全国20拠点をつなぐネットワーク構成で比較した記事内容だ。

 今読み返して違和感を感じるのは,アクセス回線にDA128を使っている点。今なら間違いなくADSLを使う。2001年7月といえば,既にNTT東西地域会社が「フレッツ・ADSL」の本格サービスを開始して半年が経過していた。それでも当時は,「ADSLは個人向けサービスで企業に使える品質にない」というのが常識だった。実際,取材先の企業やSIベンダーからも「ADSLは切れやすい」「1.5Mビット/秒の通信速度は出ない」といった声を聞いていた。

 しかし,この特集から半年後の2002年3月,筆者は『「ADSL+インターネットVPN」導入企業の実感』というタイトルで記事を執筆している。この記事を執筆してもなお,信頼性やセキュリティの面からADSLもインターネットVPNも,企業が導入するにはあまりに不安材料が多いと思い込んでいた。だが思い込みに反し,いまやADSLとインターネットVPNは,コスト・パフォーマンスを重視する企業にとって定石となった。

 もう一度,時計の針を2001年7月に戻したい。その特集には一言も登場しなかったにもかかわらず,今では多くの企業が熱い視線を注いでいる通信サービスがある。企業向けのIP電話サービスだ。本格サービスが相次いだのは2003年に入ってから。当初は,「今の電話番号をそのまま移行できない」「携帯電話にかけられない」「音声品質が落ちるのでは」など不安材料ばかりだった。しかし,IP電話もわずか1年で急成長。今は企業ネットの新しい常識になりつつある。

 無線LANについても,セキュリティのぜい弱性を問題視されながらも急速に普及が進んでいる。今度こそ,次に来る“新・常識”を読み違えることなく,本誌や当Webサイトを通じて読者にお伝えできるようにしたい。

 日経コミュニケーションでは,3月に「ネットワークの新常識」と題する記事を3号連続で掲載する予定である。この記事を執筆するにあたって,筆者ははたと考えた。現在我々記者が常識として考えていることすら,既に常識ではないのではないか――。

(加藤 慶信=日経コミュニケーション)