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 4月12日と13日の2回にわたって公開した「電話加入権を廃止すべきか?」には多くのIT Pro読者から意見をいただいた。記事は,電話加入権制度の生い立ちから置かれている状況を「上編」で,それを踏まえた筆者の意見と今後の動きを「下編」で紹介させていただいた。

 今回は下編で実施したアンケートの結果を報告したいと思う。いただいた回答の総数は2765件と,筆者の予想をはるかに超えた。また,自由記入欄にも2765件のうち897件と,3分の1の方に意見を書き込んでいただいた。電話を利用される方がこの問題に高い関心を持っていることを改めて認識した。ありがとうございます。このほか4月25日現在で上編,下編あわせて記事に対する50件弱のコメントをいただいている。再度お礼を述べたい。

 アンケートの回答で目立ったのは,「電話の利用者に対して,制度に関する説明が不足している」といった電話加入権制度の分かりにくさだ。

 前回の記事を読まれていない方に,状況を簡単に説明したい。

 電話の初期導入時に支払う,7万2000円の“正式名称”は「施設設置負担金」である。これは電話加入権ではない。電話加入権は,施設設置負担金に800円の「契約料」をプラスした7万2800円を支払った人に与えられる(注1)

注1:本記事中では,価格や料金を税別で紹介している。設置負担金は税込みで7万5600円だが,従来からなじみのある「7万2000円」と示した方が直感的に分かりやすいと考えたためである。

 一方,電話加入権があれば,施設設置負担金がなくても電話を導入できる。そのため電話加入権が家族や知人の間,街中の販売会社などで,“7万2000円相当の物”として譲渡や売買されているのである。恥ずかしながら筆者は記事を執筆するまで「電話加入権=7万2000円」と思っていた。

 ちなみに,施設設置負担金は「東西NTTが加入電話網を整備するために使う資金。解約時に返還はしない」(NTT東日本)という性格のもの。だが,「7万2000円を何に使ってきたのか,きちんと開示すべき」と多くの読者が納得しない点の一つだった。「電話ではないデータ通信用の光ファイバやNTTの施設に転用しているのでは」といぶかる声も数件あった。

6割以上が制度を理解していない

図1●電話導入時に支払う7万2000円の理解に対する全回答者の反応
「電話加入権」と「施設設置負担金」の違いは知っていましたか?(電話の初期導入時にNTTに支払う7万2000円は「電話加入権」ではなく「設置負担金」です),と聞いた。
図2●制度廃止に対する全回答者の反応
「電話加入権/施設設置負担金の廃止には賛成ですか,反対ですか?」,と聞いた。
 前置きが長くなったが,こういった背景があり,「「電話加入権」と「施設設置負担金」の違いは知っていましたか?(電話の初期導入時にNTTに支払う7万2000円は「電話加入権」ではなく「設置負担金」です)」と質問をさせていただいた。

 結果は,65%(1784名)の方が「知らなかった」と回答した(図1)。知っていると答えたのは,残りの35%。つまり,大半のユーザーは「電話加入権=7万2000円」と思っていた。これが,「施設設置負担金の廃止時にはなんらかの「返金」がある」と考える主要因になっているのだろう。「無理だとは思うが,心情的には返していただきたい」といった意見が相次いだ。「7万2000円は必ず返してもらう」という“強硬派”も少なくない。

5割が廃止賛成,2割が分からない

 次に制度の廃止議論に対するスタンスについて聞いた。質問はずばり「電話加入権/施設設置負担金の廃止には賛成ですか,反対ですか?」。

 結果は54%(1495名)の方が「廃止に賛成」と回答(図2)。また21%(575名)もの方が「分からない」と答えた。筆者の説明が足りなかった面を差し引いても,電話加入権制度自体が分かりにくく判断をしかねているのだろう。

 反対の声も無視できない。695名と4分の1の方が「廃止に反対」と回答をしている。反対の理由については,自由記入欄を見ることで大きく二つの意見があることが分かった。

 一つが“利用者側”の意見である。「すでに電話加入権を持っている。権利を持っている人とそうでない人で,電話の利用条件を分けなければ賛成できない」と既存ユーザーとして反対する声が多かった。もう一つが,“提供者側”の意見。加入権を売買している会社の方から「電話のレンタル事業用に電話加入権を6万5000円で1000本,5000万円以上かけて購入した。これが,加入電話・ライトプランの登場で下落,さらに今度は廃止の議論となっている。新しいビジネスの立ち上げを議論しているが難しい」と切実な声が聞こえてくる。

導入時の費用は3000円が妥当

 制度の廃止議論が巻き起こっている背景には,大きくは「7万2800円という電話の初期導入費用が諸外国に比べて高すぎる」「そもそも戦後復興時に電話の加入者回線を一から引くための制度だった」という2点がある。そこで,「固定電話を初期に導入する際の費用負担はどの程度が望ましいと考えますか? 」と,電話を導入する際に許容できる負担について聞いた。。

図3●電話の初期費用に対する全回答者の反応
「固定電話を初期に導入する際の費用負担はどの程度が望ましいと考えますか?」,と聞いた。
図4●制度廃止後の“上乗せ費用”に対する全回答者の反応
「仮に電話加入権/施設設置負担金を廃止し,その分を月々の利用料金に上乗せするとしたらどの程度が望ましいと考えますか? 」,と聞いた。
 ここで分かったのは,約9割とほとんどの方が「1万円以内,または1万円程度」と考えていること(図3)。「5000円以内,または5000円程度」に絞ると66%,さらに「3000円以内,または3000円程度」でも42%と大多数を占める。最も多かったのは「3000円程度」。約3割の回答を集めた。平均の負担額を取ると「約8500円」だった。

 総務省の調査によると諸外国での初期導入費用は,円換算で米ニューヨークが6468円,英ロンドンが1万2001円,フランスのパリが4995円,スイスのジュネーブが3363円だという。つまり読者の回答結果はこれら諸外国の水準と一致している。

費用負担で賛成派と反対派で大きな開き

 さらに細かく見てみることにした。図2の設問で制度の廃止に「賛成」と答えた読者(1495名)に絞ると,初期費用の負担の平均値は「約4800円」と「約8500円」からぐっと引き下がる。

 逆に制度の廃止に「反対」(695名)で絞ると,初期費用の平均値は「約1万6800円」と4倍以上高くなる。提供側もユーザー側も,保有している電話加入権の価値の値下がりに懸念を示している。反対の方の中には,今のままの7万2800円でいいという回答が78件あった。

“上乗せ金は無し”が過半数

 最後に仮に制度が廃止されるとしたら,毎月の費用負担はどうあるべきか聞いた。

 具体的には,「仮に電話加入権/施設設置負担金を廃止し,その分を月々の利用料金に上乗せするとしたらどの程度が望ましいと考えますか? 」との質問に答えていただいた。東西NTTは7万2000円の設置負担金が不要な代わりに,毎月640円を上乗せで支払う「加入電話・ライトプラン」を2002年に導入している。これに相当するような負担が妥当かどうかどうかについて意見を求めた。

 49%と約半数の方が「0円」,つまり「上乗せはなし」と答えた(図4)。月額300円以内に約9割の回答が集中。平均値を取ってみると月額127円だった。

既加入者が上乗せに強い拒否反応

 月額の料金は,初期導入費の議論とは構図が異なる。議論は料金水準うんぬんよりも,上乗せの「あり」「なし」で展開していきそうだ。

 読者からいただいた自由回答はすべての中でも,毎月の上乗せ分に対するものが最も多かった。具体的には,「少なくとも電話加入権を保有しているユーザーに対しては,毎月の料金上乗せは断じて許さない」という意見だ。

1割が電話を引いていない

 今回のアンケートでは,そもそも固定電話を引いているかどうかについても聞いた。約1割に当たる284名の方が「固定電話を契約しないで,PHSや携帯電話を契約して利用している」と答えた。予想よりも“固定電話離れ”が進んでいると感じた。筆者は,せいぜい3~5%ぐらいと踏んでいた。

 これら非固定電話ユーザーに絞った初期導入時の費用負担を聞いてみた。結果は,約7400円で,全体の約8500円と比べると一段と低い。裏を返せば,初期導入費用がこの程度まで下がれば,固定電話を導入する可能性がありそうだ。

“税”と“信用”への懸念

 自由記入欄にいただいた意見のうち,以下の二つは社会的に重要なものだと思った。

 一つは“税”に関すること。「制度を廃止するとしたら,電話加入権の簿価と実際の評価額の差はどうなるのか」と税制面の方針を示してほしいとの声が多かった。電話加入権は多くの企業で固定資産として計上している。施設設置負担金が廃止されれば,電話加入権の価値も下がるのは確実だからだ。

 二つめは固定電話を使っていることに対する“信用”である。「固定電話の有無を,個人の信用を審査する際に用いているケースがある。加入と契約解除が簡単になる廃止の議論は慎重にすべき」といった意見が数件あった。これを防ぐため「総務省は固定電話の有無を信用情報にしないよう指導すべき」との案を示す読者もいた。

ついに本格的な議論が始まる

 筆者が上編と下編の記事を執筆した直後に,東西NTTと総務省が制度見直しに向けて正式に動き出した。正直,ここまで具体化するとは思っていなかった。

 まずは4月15日。NTT東日本とNTT西日本の2社が,麻生太郎総務大臣に「施設設置負担金の廃止を含めた見直しが必要」との要望書を提出した。そして5日後の20日。総務省がこれを受ける形で同省の情報通信審議会会合で,施設設置負担金の廃止を議論する委員会の設置を表明したのである(関連記事)。

 制度の廃止は,東西NTTと総務省だけで決められるものではない。電話加入権に対する「質権」では法務省,電話加入権の「会計処理」では財務省といった省庁間の話し合いが必要となる。また,電話加入権を売買している販売会社への対処も必要となってくるだろう。

 最も大事なのは一般ユーザーへの影響への対処だ。筆者が再度主張したいのは,7万2000円の電話加入権を1万5000円や2万円など,販売会社や家電量販店での取引水準まで早期に引き下げること。格安に入手できることを知らずに,7万2000円の“定価”を支払っているユーザーが不利益を被っている。「電話加入権が1万数千円で手に入るとは知らなかった」との声が寄せられている。

 また,「廃止の噂があり加入電話・ライトプランを使い続けている。このまま廃止が引き延ばされるのであれば,電話加入権を購入したほうが良かった。きちんと方向を示してほしい」という意見ももっともだ。東西NTTや総務省は方針を早めに示すべきではないか。日経コミュニケーションの取材に対し,総務省幹部は「今秋には何らかの結論を出したい。廃止ありきではなく,見直すのであればどのような形がいいのかを議論していく」と前置きしたうえで,「もし仮に施設設置負担金を廃止するのであれば,加入電話・ライトプランも含めてすべて上乗せは無しの方針。固定電話網への投資はもう終わっているのだから」との考えを示した。

(市嶋 洋平=日経コミュニケーション)