2002年も残すところ10日あまりとなった。今年,システム構築現場で問われた課題は何だったか,日経オープンシステムの記事や調査から振り返ってみたい。

 開発現場には常に山のように課題がある。だが,私見ながら2002年の新しい課題を,あえて3つだけ挙げるとすれば,「短期開発への取り組み」「開発・運用コストの削減」「J2EE,.NETという新しい開発基盤への対応」ではないかと思う。一方で,変わらない課題もある。「生産性や安定性の低さ」に悩む開発者は相変わらず多く,その原因が「人材や情報の不足」という構図も簡単には解決しそうもない。

開発期間の短期化は止まらない

 日経オープンシステムでは,例年「企業情報システム実態調査」というアンケート調査を行っている。1年前の結果になるが,システムを稼働時期別に見ると,1999年に稼働したシステムのうち,開発期間が3カ月以内のシステムは12.7%だったのに対し,2001年1~6月に稼働したシステムでは16.5%,2001年7~10月に稼働したシステムでは26.7%,2001年11~12月に稼働したシステムでは27.6%が3カ月内となっている。平均開発期間で見ても,1999年は12.3カ月だったものが,2001年11~12月では7.6カ月と,どんどん短くなっている(関連記事)。

 その後,開発の短期化に対するプレッシャは弱くなったのではないかとも思ったが,本誌が取材している範囲では,一度短くなった開発期間は元には戻らないようだ。ちなみに,今年度の調査は現在WWW上で実施中であり,ご興味をもたれた方はぜひこちらのページからご回答いただきたい。

 ビジネス上の状況変化が激しくなっている以上,開発期間の短期化はある意味で避けられないのだが,当然弊害もある。SEにハードワークを強いるという問題ももちろんあるが,システム上の問題も起き得る。最大の問題は品質である。多くの開発者は「時間が不足すると,どうしてもテスト工程にしわ寄せが行く」と漏らす(本誌2002年11月号特集「テストの死角」)。品質低下だけでなく,コードが複雑になったり例外処理が増えたりする「プログラムが荒れる,汚れる」という状況に悩む企業も多い(関連記事)。

 もちろん短期開発はデメリットばかりではない。ビジネスの状況に合わせてタイムリにシステムを投入できる。小さく生んで大きく育てていけば,無駄なコストをかけずにニーズに合ったシステムを構築できる。要件を絞りこんで,後で変更が生じないよう仕様を固めれば,期間短縮は必ずしも無理難題ではない。

 技術面では,生産性と品質を向上させるために,フレームワークに注目が集まり,J2EEによるWebアプリケーションでは採用が当たり前になった(関連記事)。なるべく作らずに,すでにあるシステムを利用することも有効な方法である(関連記事)。

 とはいえ,短期開発は時間的な余裕が少ないだけに,ちょっとした手違いや,マネジメント力あるいは技術力の不足が失敗につながりやすい。いかに短期開発に対応できるかが,開発現場の重要な課題であることは間違いない。

コストを削減する知恵が問われる

 景気の後退などにともなう,コスト対効果に対する要求も厳しさを増した(関連記事)。生産効率追求はもちろん,オープン・ソース・ソフトウエアの採用も拡大した。Linuxは,すでに当たり前に使われる普通のOSになった。その上の,オープン・ソースのRDBMSであるMySQLやPostgreSQLをどう使いこなしていくがポイントになっている(本誌2002年7月活用&選択「オープン・ソースのDBMS」)。フレームワークも,オープン・ソースのStrutsの採用が拡大している(関連記事)。

 インテグレータにも厳しい状況が訪れている。「元請の大手メーカーから提示される技術者単価は2年前の約半分。それでも,遊ばせておくよりはマシ,と仕事を請けているインテグレータもいる」(あるインテグレータ)という声さえ聞こえる。中国やインドへの発注も増えている。コスト削減と戦える知恵が問われている。

不十分な知識がトラブルを引き起こす

 新しい技術は常に登場しているが,J2EEや.NETは多くの開発者にとって避けて通れない開発基盤であり,そのノウハウの蓄積が重要な課題となっている。いかなる技術であっても同じだが,十分に習熟しないまま不用意に開発を行うと,トラブルを招くことがある。

 J2EEは,ここ1~2年で急速に普及したが,複雑な技術であり,習熟に時間がかかる。間もなく発行される2003年1月号の特集記事「J2EEのトラブル回避」では,確保したリソースの解放漏れなどによりメモリー・リークを引き起こして頻繁にダウンしたり,マルチスレッドで実行されることに対する注意が不足して別人の情報を表示してしまう例やその原因,対策を紹介している(関連記事)。

 Windowsサーバー上の開発技術も,今年は.NET Frameworkという,数年ぶりの大きなプラットフォームの世代交代があり,開発者は新たな技術の習得を迫られている(関連記事)。

変わらない課題,最後は「人」

 新しい課題があれば,昔から変わらない課題もある。再度「企業情報システム実態調査」を引用すると「システム構築において経験した問題」という設問では,96年の調査開始以来「開発生産性が低い」「システムの安定性・信頼性が低い」が常に上位を占めている。

 「問題の原因」も,例年一貫しており,「社内にスキルを持った人材が少ない」という回答がトップを走り続けている。実は,2002年に本誌で最も読まれた記事のひとつが7月号の「必要とされるSE」という特集記事だった。環境や技術が変わっても,システム構築の成否が「人」にあることは変わっていない(関連記事)。

 そして,「問題の原因」の2位として定着しているのは「構築・運用に必要な情報が不十分」という回答である。言うまでもなく雑誌の役目は情報の提供であり,日経オープンシステムでは,2002年,ここまでご紹介してきたような情報をご紹介してきた。しかし,本誌のほかにも様々なメディアを通じて,情報が氾濫していても,本当に必要な情報は得られていないという方が大勢いらっしゃる。

 雑誌としては深く反省しているが,同時に,まだまだ果たすべき役割があると感じている。2003年に「構築・運用に必要な情報」はなんだろうか。本誌では現在,前述のように「企業情報システム実態調査」を,WWW上で行っている。結果は日経オープンシステム誌およびIT Pro上でご報告させていただく予定である。システム構築の課題として,何が最も切実になっているのか。開発現場の状況のうち何が変わり,何が変わっていないのか。こうした情報をご提供したいと思っている。

 ご興味を持たれた方は,ぜひ調査にご参加いただき,本誌およびIT Proへの注文と思い,直面されている課題をお知らせいただければ幸いである。

(高橋 信頼=日経オープンシステム副編集長)