Visual Studio .NETの最大の魅力は,Visual Basicプログラマを比較的容易にWebアプリケーション開発者にできること。また,充実したWebサービス関連機能は,社内システムやBtoBでのシステム間連携で効果を発揮する。ただ,Javaと比べてフレームワーク製品が少なく,現状では大規模アプリケーション開発に適用しにくい。

 米Microsoftは2002年3月,開発ツール「Visual Studio .NET(VS.NET)」と実行ソフトウエア「.NET Framework」の出荷を開始した。

 旧Visual Studio(VS)製品と比べ,.NET対応のVS.NETは,Webアプリケーションの開発支援機能が優れている。また,.NET Frameworkはアプリケーションの信頼性や開発の柔軟性を高めており,.NETに大きな期待を抱いているユーザーは多い。既に商社の稲畑産業,クボタ,東急観光などは.NET技術の導入を決定している。

 米Microsoftの狙いは,.NET Frameworkを普及させ,それと連携する形で同社のサーバー・ソフトウエアを拡販することである。.NET技術はインターネット技術を取り込んでオープンであることを強調するものの,開発ツールのVS.NETと実行ソフトウエアの.NET Frameworkはワンセットになっており,.NET Frameworkのライブラリを生かすには同社のサーバー・ソフトが必要になる。.NET技術を使うということは,米Microsoft製品に囲まれることとほとんど変わらない。

.NETのメリットと課題

 企業ユーザーとしては特定ベンダーに依存したくはないものの,優れた製品や技術は,その特性を生かせる領域において積極的に使っていきたい。

 VS.NETを使うことで得られる主なメリットは,(1)Visual Basic(VB)を使ってこれまでC/Sアプリケーションしか構築してこなかったプログラマを比較的容易にWebアプリケーションのプログラマにできることと,(2)インターネットを介したアプリケーション間連携を実現するWebサービス技術を使ったアプリケーションの開発支援機能が充実していることだ。

図1●米Microsoftの狙いと課題
Visual Studio .NET(VS.NET)の開発者を増やし,.NET Frameworkを普及させることが狙い。そのためにはVisual Basic 6.0やASP(Active Server Pages),Javaの開発者にVS.NETを使ってもらわなければならないが,(1)(2)(5)新たに技術を習得しなければならない,(3)移行するメリットが見えない,(4)技術の有効性がはっきりしない――などの課題がある
写真1●VS.NETで開発したWebアプリケーションの画面
クボタが開発中の人事システムの画面例。Visual Basic 6.0で開発したC/Sアプリケーションを,VB.NETでWebアプリケーションに移行した。スプレッド・シート以外はVB.NETの標準部品で対応できたが,クライアント・サイドで稼動するスクリプトを後から追加する必要があった

 ただし,メリットを享受するには注意すべき点がある(図1[拡大表示])。確かにVS.NETは旧VS製品に比べてWebアプリケーションの開発支援機能が優れているが,これまで旧VSでC/Sアプリケーションを開発してきたユーザーやASPでWebアプリケーションを開発してきたユーザーがVS.NETでWebアプリケーションを開発するには,新たな技術の習得が欠かせない(図1の(1)と(2))。C/Sアプリケーションを開発する目的でVS.NETに移行する場合でも,言語仕様や部品などの細かい点に無視できない違いがある(同(5))。Webサービス技術に関しては,今の時点ではWebサービス技術そのものの有効性に不明な点が多い(同(4))。

 一方で,Javaと比較した場合の.NETの課題もある。Javaのユーザーにとっては,既に習得した技術を捨ててVS.NETに乗り変えるメリットが見えない(同(3))。現状ではJavaに比べて対応製品が少ないからだ。

 企業システムの担当者は,これらの状況を把握しておきたい。以下では,課題(1)~(4)を通して,.NETの実力を見ていこう。

(1)(2)標準部品だけでは不十分

 VS.NETでのWebアプリケーションの開発は,WWW対応のGUI部品「Web Forms」を使って開発する。Web Formsの特徴は,HTML(HyperText Markup Language)やHTTP(HyperText Transfer Protocol)などのWWW技術を開発者から隠ぺいすることである。WWW技術の隠ぺいが本当にできるのなら,C/Sアプリケーションを開発してきたVB6.0のユーザーは,VS.NETで簡単にWebアプリケーションが開発できることになる。

 写真1[拡大表示])は,クボタがVB.NETで開発したWebアプリケーションの画面である。VB6.0で構築していたC/Sアプリケーションを移行したものだ。「ほとんどの機能はVB.NETの部品で再現できた。部品として無くて困ったのはスプレッド・シートの機能くらい」(システム開発を担当したクボタシステム開発 第一ソリューション事業部第一コンサルテーショングループ課長代理の伏見弘樹氏)だったという*1

 ただ,「C/Sアプリケーションと同じ操作性を実現するためには,クライアント側で稼働するスクリプトを後から追加する必要があった」(同氏)。Webアプリケーションを開発するための敷居は下がったものの,やはりHTMLやHTTP,JScriptなどのWWW技術の習得は欠かせない。

(松山 貴之=matsuyam@nikkeibp.co.jp)