日経マーケット・アクセスが国内企業を対象に2001年12月~2002年1月に実施した調査によれば,2002年度のシステム投資を2001年度に比べて「増やす」予定の企業は34.3%で,「減少」という回答(26.7%)を上回った(調査結果の概要はこちら)。

 この数値だけを見れば,企業の情報化投資は依然として堅調のようである。だが,2001年5月の同調査では,2001年度のシステム予算を前年度より増加させた企業が45%を超えていた。投資を増やすと回答した企業が半年で10%以上も減っており,今まで“聖域”と言われることの多かった情報化投資に,減速感が出てきたことは否めない。

ランニング・コストの増大に悩むユーザー企業

 私自身も日ごろ,ユーザー企業の情報システム部門の方に取材をすることが多いのだが,確かに取材先の方々にとって,“コスト削減”が今まで以上に重い課題になっていると感じている。

 システム担当者を悩ませているのは,経営環境が悪化し,システムにこれまでのように多くのお金をかけられなくなった,という経済的な要因だけではない。多くの企業で「情報システムのランニング・コストが予想外に増え,悩んでいる」という声を聞いた。

 これは,情報システムの特性が,従来とは大きく異なってきたことによる。ここでいう“特性”とは,「柔軟な変化/成長が求められる」ことと「同時アクセス・ユーザー数など,システムにかかる負荷が読みにくい」ことである。典型的な例としては,日々新たな機能の追加が必要で,かつユーザー数の伸びが予測しにくいECサイトが挙げられる。

 企業の情報システムへの期待は決して衰えていないのだが,情報化投資は抑制せざるをえない。加えて,ECサイトのようにランニング・コストが予想以上に膨らみがちなシステムが増えている。このような難しい状況で,SEは何を考え,どのように行動すればよいのだろうか。日経オープンシステムの2002年5月号の特集「ランニング・コストを見直せ」は,こんな思いから企画したものだった。

“コスト削減”は後ろ向きな行為ではない

 “コスト削減”と言ってしまうと,どうしても後ろ向きなイメージがつきまとう。だが,特集の取材でお会いした情報システム部門の担当者からは,「“安かろう悪かろう”で我慢する」,といったネガティブな考えはほとんど聞かれなかった。やや乱暴だが,取材先の方々に共通する気持ちや姿勢は,以下のようにまとめられると思う。

 「情報システムは,今後の企業を支えるために,極めて重要だ。だからといって,現在の経済環境を考えれば,システム投資を聖域化することはもはや許されない。ではどうするか。既存のシステムを徹底的に見直し,コストを削れるところは徹底的に削る。その代わり,浮いたコストは企業に新たな利益をもたらすシステムや,企業の生命線であるシステムに惜しみなくつぎ込む」――

 彼らにとって,コスト削減は決して後ろ向きな行為ではなく,積極的なシステム投資を実現するために必要な,前向きの行為なのである。

 具体的なポイントは,いろいろある。一つは,システムのアーキテクチャを見直す,といった技術面での努力である。ここで重要なのは,やみくもに安価な製品・技術を導入するとか,機能や信頼性を犠牲にする,ということではない。

 分かりやすい例としては,従来は同じハード,同じデータベース管理システムを利用していた更新系のデータベースと参照系のデータベースを分割する,などが挙げられる。こうすることによって,比較的単純かつある程度のダウンタイムが許される参照系には無償のオープン・ソースのデータベース管理システムを適用するなどで,コストを削減しやすくなる。その代わり,重要な更新系はクラスタリング技術を採用するなどで徹底的にコストをかける,といったことだ。

 また,あるECサイトの担当者は,「通常一つのサービスを(オープン・ソース・ソフトの活用などでコストを抑え)数百万円で立ち上げるが,課金系では,障害発生時の社会的影響などを考慮して,数億円を投資した」と語っている。

改めて感じる情報システム部門の重要性

 詳細についてはここでは語り尽くせないので,日経オープンシステム2002年5月号を参照していただきたいのだが,ポイントをあえて一言でまとめるならば,「メリハリをつけたシステム投資を目指す」ことだろう。

 とはいっても,これを実現するのは非常に難しい。技術的な検討だけで済むことではないからだ。企業にそのシステムもたらす価値や,そのシステムが障害を起こしたときに企業が被る損失まで考えて,技術的な実装を検討しなければならない。

 本当に重要な部分にお金を集中するためには,ある部分は勇気をもって“割り切る”,あるいは“あきらめる”決断が必要になることもある。このサブ・システムは本当にここまでコストをかけなければいけないのか,このサーバーは本当に24時間無停止の信頼性が求められるのか,ここにお金をかけるよりも,もっとこちらにお金をかけた方が得策ではないか――。こんな風に,ユーザー部門と衝突したり,ユーザー部門を説得したりしなければならないことも多いだろう。

 損な役回りだし,重圧のかかる仕事でもある。だが,こうした重要な役割をこなせるのは,やはりユーザー企業側にいるSEでなければ難しいと思う。もちろん,アウトソーシングを活用する,というのも立派な選択肢ではある。だがその場合も,何から何まで外部のIT専門企業に任せておけばよい,というわけにはいかない。何を価値としてアウトソーシングするか,を考えるのは当然ながらユーザー企業内の人間である。

 例えば,ネット証券取引サイトを運営するある証券会社は,トランザクションが増加するにつれて,1トランザクション当たりの価格は下げる,という契約をアウトソーシング先と結んだ。これは,従来,自社でシステムを運用し,取引量が増えるにつれて,1トランザクション当たりのコストが増加していた,という問題意識があったからこそできた意思決定だと思う。

 「ランニング・コストの見直し」をテーマにした今回の特集では,多くの企業から様々なコスト削減の工夫を学ぶとともに,限られた情報化投資を最大限に活用するという,企業にとっての情報システム部門の重要性を改めて考えさせられた。

(森側 真一=日経オープンシステム副編集長)