「十分なシステム開発期間が得られない」,「上流工程に時間がとれず,テスト時に仕様もれの発見や仕様の変更が相次いだ」,「オーバーワークのためソフトの品質を向上させることができない」---

 日経オープンシステムでは2000年11月,読者3000人を対象に,「企業情報システム実態調査2000年版」を実施した。この際とくに印象に残ったのが,冒頭に紹介した回答者の不満の声である。その背景には,ここ数年,情報システムの開発期間が急速に短くなってきたことがある。

3カ月以内の開発プロジェクトが20%を占める

 開発期間が短くなる傾向は,調査結果からはっきりと読み取れる。回答者が参画したシステムの開発期間を稼働時期別に集計してみると,1996年以前に稼働したシステムの開発期間は平均17.2カ月だった。ところが1997年~1999年に稼働したシステムでは平均10~11カ月,2000年に入ると1月~6月で9.6カ月,7~10月で8.2カ月,11~12月に稼働したシステムでは平均6.3カ月と,どんどん短くなっている。

 3カ月以内という短期開発のプロジェクトも急増した。1997年までは全体の5.0%以下にすぎなかったのが,2000年では4倍の約20%に達した。

 では,開発期間が短くなる中で,システムを開発・運用する上で苦労した点,問題になった点はなんだったのだろうか。調査ではこの点も尋ねてみた。ソフトウエア製品,ネットワーク,ハードウエア,といったシステムを開発するための“製品や基盤技術(製品・技術)”を問題点として挙げた回答者は意外と少ない(それぞれ18.8%,8.7%,2.9%)。

 もちろん,製品・技術に問題がないわけではない。実際,製品のバグやセキュリティ・ホールに悩むSEは多い。だが,それ以上にシステム開発に携わる“人”に起因する問題を挙げた回答者が多かったのである。もっとも多かったのは,システムの設計(26.2%),次いでプロジェクトの体制(21.9%)である。「ユーザー企業側のシステム専任者に仕様の決定力がない」,「いつまでもユーザーの意見を聞いているばかりで,プロジェクトでどこまでやるかを決定できるキーマンがいない」といった声が,多くの回答者から寄せられた。

 “人”に起因する問題が大きいことは,「問題の原因は何か」という設問(複数回答)に対する回答からもうかがえる。もっとも多かった回答は「社内にスキルを持った人材が少ない」,である(43%)。「製品・技術が未成熟である」との回答は,約半分の22%にとどまった。

カギは製品・技術よりも人

 カギは製品・技術よりも人---。短期開発に成功したプロジェクトを取材していると,それを実感することが多い。最近,BtoC(コンシューマ向け電子商取引)のシステムを短期間で開発した事例を取材して回る機会があった。開発期間はどれも1年以内。3カ月で株取引サイトを立ち上げた事例もあった。

 これらの事例では,必ずしも派手な最新の製品・技術を駆使しているわけではない。既存のCOBOLプログラムを徹底的に再利用して開発期間を短縮した例もある。プロジェクトを成功に導いたカギは,従来の作り方では間に合わないという問題意識を胸に,必要な機能を厳しく絞り込む,既存資産を徹底的に再利用する,などの決断を下し,実行したSEマネージャたちの手腕だった。

 “ITブーム”を背景に,ベンダーは次々と新製品,新技術を繰り出してくる。そして,その動きは華やかに報じられる。だがシステム開発プロジェクトにおいて,製品・技術という要素は,実は決定的な役割を担っているわけではない。同じ製品・技術を使っても,頓挫するプロジェクトもあれば成功するプロジェクトもある。問題の原因となるのも困難を解決するのも,結局はプロジェクトに参画する“人”なのだと思う。

 「完成したシステムを初めてユーザーに見せるとき,便利になったと喜ぶユーザーの顔を見るのがなによりの喜び」---。ある企業のIT部門マネージャが語ったこの一言が忘れられない。開発期間がどんどん短くなり,期間3カ月のプロジェクトが全体の20%を占める今は,システムの作り手にとって受難の時代なのかもしれない。確かに解決しなければならない課題は山積している。だが,悲観ばかりしていることもない。このマネージャが語る“作り手の喜び”を感じる機会が増えた時代でもあるのだから。

(矢崎 茂明=日経オープンシステム)

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◎参考文献
■日経オープンシステム2001年3月号,pp.156-163,「検証&調査:企業システムの構築実態」