アウトソーシング・ビジネスに変化が表れてきた。順風満帆できたこの業界で,最近,成約までの期間が以前に比べ2~3倍長くなったり,契約を途中で見直すケースも出始め,新規受注の伸び悩みと合わせ不況の影響が色濃く出てきたようだ。その中で,新世代と言うべきアウトソーシング・サービスも生まれている。

 アウトソーシング先進の米市場で最近,変貌しつつあるこの市場を占ういくつかの動きがあった。まず6月に,米Netscape Communicationsの創始者であるMarc Andreessen氏が2年前に開始したWebホスティングの米Loudcloudが,同事業をITサービス大手の米EDSに6350万ドルで売却。続けて米Intelが10億ドルを投下し鳴り物入りで始めたWebホスティング事業からの撤退を発表した(関連記事)。

 また,かねてからコンピューティング・パワーを公共サービスの一種として従量制で提供していくと公言していた米IBMが,7月から本当にそれを実行に移し始めた(関連記事)。8月には,不正会計問題で揺れる米Qwest Communications Internationalがアプリケーション・アウトソーシングの変形モデルであるASP(Application Service Provider,[用語解説])事業から撤退し,同事業をASPの米Corioに売却した(関連記事)。

日・米IBM共にアウトソーシングが不振

 Webホスティングは,ホスティング事業者が自前のデータ・センターに設置したサーバーやストレージ,ネットワークなどの機器の運用,保守を企業ユーザー向けに提供するサービス。Webサイトが爆発的に増えた2~3年前はデータ・センターの建設も需要に間に合わぬ活気が見られ,市場規模は99年から年率64%で伸びると米Forrester Researchは予測していた。

 しかし,ドットコムの破綻に不景気が重なり,黄金ラッシュを見込んだ新規参入のホスティング事業者は資金繰りでどこも苦況に立たされた。最大手の米Exodus Communicationsも2001年9月に破産申請をし,英Cable & Wirelessに買収された。米Webmerger.comの調べによると,2001年1月から18カ月の間に破綻した米ドットコム企業862社のうち16%をホスティング事業者などのインフラ企業が占める。

 そこで改めて認識されたことは「設備投資型のホスティング事業は資金負担が重い」という事実。それなりの資金力と運用アウトソーシング経験のあるIBMやEDS,日本ではNTTデータとか富士通でないと利益が出しにくい構造になってきた。実際,Webホスティングの2001年の世界市場シェアは,米Frost & Sullivanによれば,Exodusを買収したCable & Wirelessが26%,IBMが16%,EDSが9%と3社で過半数を占める寡占状況を呈してきた。

 アウトソーシング契約の見直しでは,米IBMが2001年に発表した米NetTune Communicationsなどの例がある。当初5年間で契約額1億1200万ドルの大型アウトソーシングが,同時多発テロやIT予算の締め付けで,今年に入ってから再交渉。結局,アプリケーション保守など一部業務に限るアウトソーシングに変更され,IBMが手にした契約額は1000万ドルと大幅に減額されてしまった。不況でシステム運用が縮小されたため,自前で運用した方が安上がり,というのが企業ユーザー側の判断だ。

 日本IBM関係者によれば,日米IBM共にアウトソーシングの新規契約獲得は大きく減っている。これにシステム・インテグレーションのバックログも解消されつつあるため,米IBMの2002年上半期のサービス収入は前年同期比2%減,日本IBMは伸びてはいるものの,伸び率は大幅にダウンした。このため米IBMは9月末までにサービス部門から1万4200人を削減する。

 IBM連結では3四半期連続でサービス売り上げが減っている。特に2000年に1億円弱の新規契約を獲得し,2001年に60%増のアウトソーシング売上高を記録した日本IBMは,企業の契約見直しや延期,見送りで,順調だったアウトソーシング事業に急ブレーキがかかり始めた。

従量制料金の「Linuxバーチャル・サービス」,2004年から本格化とIBM

 こういう従来型のアウトソーシング事業が厳しい環境に進路を阻まれ始めた中で,米IBMは「究極のITコスト削減ソリューション」と銘打った「ユーティリティ・コンピューティング(UC)」という新種のアウトソーシング・サービスを開始した。

 今年1月末に欧米で2600万ドル(31億円)かけて打ち出した「e-businessオンデマンド」キャンペーンの最初のリアルなサービスだ。同広告キャンペーンでは,水道・ガス・電話・電気に次ぐ第5番目の公共サービスとして「コンピューティング」を位置づけていた。

 「Linuxバーチャル・サービス」と名付け7月1日から開始した米IBMのUCサービスは,IBMデータ・センターに設置したLinux搭載メインフレームを数百から数千のパーティションに分け,その各Linuxサーバー上に置いた自前のアプリケーションをオンデマンドで活用する。顧客は,コンピューティング・パワーの使用量に応じて料金を支払う,というもの。

 従来型のアウトソーシングやホスティングの延長線上にあるものの,それらとは一線を画している。顧客はこれまで,その顧客専用のハードやソフトに対して長期の固定料金契約を結んできたが,新しいサービスは様々なITリソースを共有し,ブロードバンドによる常時接続で利用する。IT利用を「所有」から「共有モデル」に変えるものだ。

自律型とグリッドが「新世代アウトソーシング」の技術基盤

 米IBMは,この種のサービスが2004年から本格的に立ち上がると期待し,2007年には1兆ドル規模のIT市場のうち10~15%(約12~18兆円)がオンデマンド型の公共サービスになると見る。IBMはこの種のサービスをe-businessの究極の姿としており,故障を察知し自己回復する「自律型コンピューティング」や,世界のデータ・センターを網の目のように連結してコンピューティング・パワーを共有する「グリッド・コンピューティング」を,公共サービスの技術的な基盤にしている。

 Linuxバーチャル・サービスの価格体系も発表された。料金は「サービス・ユニット」という単位で月額300ドルを利用企業に請求する。3サービス・ユニット,つまり月額900ドル(約11万円)でインテル・チップ搭載の中型サーバー1台分のコンピューティング・パワーが使える。

 現在中型サーバーは60万円前後であるから,サーバー価格だけを考えると安くはない。だが,IBMによれば,データ・センター要員の費用やサーバー設置スペース,バックアップやセキュリティ関連のコストを考慮すれば,顧客はIT所有コストを20~55%節約できる。

 料金は,ピーク時ではなく毎日の使用量の平均に基づき請求される。日報をまとめるのに,1日の最後の1時間に大量のコンピューティング・パワーを消費するが,それ以外の時間帯はほとんど使わない企業は,ピーク時に合わせて強力なサーバーを購入する必要がないため,コスト安となる。また季節変動も加味されるという。

不況時にこそ新潮流が出現,電力サービス定着には40年かかったが・・・

 多くの米ITアナリストは,コンピューティングの公共サービスに「具体的にどれだけの企業が関心を寄せているかは分からない」と,IBMよりも慎重な見方をしている。だが一方で,将来的に一般的なサービス・モデルになるという見解では一致する。

 米IDCの予測モデルによれば,伝統的なアウトソーシングは2004年前後をピークに下降し始め,UCサービスやマネージド・サービス・モデルといった新興サービス・モデルが急速に立ち上がる。そして2008年前後にUCサービスが従来型アウトソーシングを市場規模で上回る。

 マネージド・サービスは,伝統的なアウトソーシングが「サーバーも要員もサービス・ベンダーに引き渡す」のに対し,サーバーをユーザー企業のデータ・センターに置いたまままで,それをMSP(マネージメント・サービス・プロバイダ)が遠隔地から運用管理やアプリケーション更新サービスを提供するもの。米国では3年ほど前から始まった。

 ITの公共サービスやマネージド・サービスはまだ始まったばかりで,将来主流のアウトソーシング・サービスになるかどうかは分からない。しかし,景気が低迷するときにいつも新しいITの潮流が生まれ,あっという間に普及したのがこれまでの歴史だ。

 1970年代と80年代前半のオイルショック不況期に,IBM互換のディスクやテープ,端末装置,そしてプロセッサが一気に大市場を形成しIBMを慌てさせたという前例もある。一方,公共サービスで言えば,1890年代に米国で始まった電力会社による配電サービスが企業に定着し,米企業の自家発電機を駆逐したのは1930年代に入ってからだ。しかし,ことはスピードが身上のITの世界でのことである。

(北川 賢一=日経システムプロバイダ主席編集委員)