MPEGに関する特許のライセンス業務を行う米MPEG LAは2月10日,MPEG-4ビジュアル特許ライセンスに関する説明会を国内で実施した。動画像を配信するサービス・プロバイダもライセンス料を支払う必要があるために,話題を呼んだMPEG-4ビジュアル特許ライセンスであったが,「説明会に集まったベンダーやプロバイダには理解を得られた」(MPEG LAのLicensing&Bussiness Development,Vice PresidentのLawrence A. Horn氏)。
MPEG-4は,DVDで採用されているMPEG-2と同様に,デジタル化した動画像を圧縮(エンコード)および復元(デコード)するための規格の名称である。
MPEG-4の技術には複数ベンダーの特許が含まれている。MPEG-4を利用する製品やサービスを提供するベンダーやプロバイダが,特許を保有するそれぞれのベンダーと交渉しなくても済むように設立されたのがMPEG LAである。MPEG LAが関係する特許を一括して管理し,ベンダーやプロバイダにライセンスするのである。
MPEG-4には複数の特許ライセンスがあるが,その“コア”となるMPEG-4ビジュアル特許ライセンスに注目が集まっていた。というのも,MPEG LAが2002年1月に発表したMPEG-4ビジュアル特許ライセンス“案”には,デコーダやエンコーダといったMPEG-4関連製品を製造販売するベンダーばかりではなく,MPEG-4でエンコードした動画像を配信するプロバイダにもライセンス料を要求する記述があったからだ(関連記事)。これに対して,米Apple Computerをはじめとするベンダーやプロバイダ,ストリーミング・メディア技術の標準化団体「ISMA」から抗議の声が上がった。
実際,MPEG LAのHorn氏も「このときには,特にサービス・プロバイダは声高に懸念を表明した。ライセンス料を課すことで,MPEG-4動画像の提供をためらうようになり,MPEG-4の普及を妨げてしまうのではないかと懸念する声が多かった」と振り返る。「ただし,今回のライセンスは,どの業種に対しても公平であるように考え抜かれたものだ。サービス・プロバイダだけにデメリットをもたらすものではない。策定作業もオープンに進めているので,いずれかの業種だけにメリットやデメリットをもたらすことはない」(同氏)
最初のライセンス案にはあまりにも多くの批判が寄せられたため,2002年3月,MPEG LAは特許保有ベンダーといっしょに,ライセンスを再検討すると表明した(関連記事)。再検討の結果,2002年7月に,MPEG LAは特許保有ベンダーとライセンスの改定を進め,最終合意に達した(関連記事)。そして2002年11月,最終的なライセンスを公開し,適用を開始した(関連記事)。
最終的なライセンスでも,当初の案と同様に,MPEG-4動画像を提供するプロバイダには1時間当たり2セントのライセンス料を要求している。しかしながら,ライセンス料に上限を設けたり,「利用が少ない企業には料金を徴収しない」などの例外事項を盛り込んだりした。
前者については,例えば MPEG-4のソフトウエアを製造販売するベンダーおよび動画像を配信するプロバイダのいずれでも,年間の支払い上限を100万ドルに定めた。当初の案では,ベンダーには同様の上限が設定されていたものの,プロバイダには設定されていなかった。
後者については,例えば 1年間に製造販売したデコーダおよびエンコーダのうち,最初の5万個については,ライセンス料金を徴収しないと定めた。
MPEG LAのHorn氏はこれら2点を同ライセンスの優れた点として強調する。「上限を定めたおかげで,MPEG-4のユーザー(ベンダーやプロバイダ)は安心して利用できるようになる。また,ライセンス料金を徴収する“しきい値”を定めたことで,中小規模のベンダーでも容易に市場参入できる。今回の説明会でも,これらの利点について理解を得られたと感じている」
今回MPEG LAが実施した説明会には,およそ百名が参加したという。業種はさまざまで,「デコーダおよびエンコーダのベンダーや携帯電話のベンダー,コンテンツ・プロバイダ,キャリア――など,MPEG-4に関係するすべての業界から参加者が集まった」(MPEG LAのHorn氏)
なお,MPEG-4のライセンス料は,デコーダやエンコーダ,動画像を利用して利益をあげた場合のみ支払う必要がある。個人同士でMPEG-4動画像をやり取りする場合などは,支払う必要はない(実際には,ベンダーが支払うデコーダおよびエンコーダのライセンス料に個人利用のライセンス料は含まれている)。企業が自社の広告動画像を配信する場合も,それで直接利益を得るわけではないので,支払う必要はない。
ただし,動画像コンテンツを無償で提供している場合でも,例えばそのページに広告があって広告収益を得ている場合には,ライセンス料を支払う必要がある。
また,例えばキャリアが,あるコンテンツ・プロバイダへの接続をユーザーに提供している場合には,キャリアはライセンス料を支払う必要がないが,キャリア自身が動画像を配信している場合には,それによって通信料金の増加を図れるので,ライセンス料を支払う必要がある。
「どういった場合に,いくらのライセンス料金を支払う必要があるのか」は,話を聞く限りでは一概には言えないようだ。「ライセンシ(ライセンス利用者)からは,ライセンス料金に関して,1週間に何千件もの問い合わせがある」(MPEG LAのHorn氏)――。詳細なライセンス料金については,同社に問い合わせる必要がある。
なおMPEG-4のライセンスのコピーは,同社のWebサイトからダウンロードできる。
(勝村 幸博=IT Pro)