「事例取材のインタビューでは、相手がポロリと本音を漏らすような、”引き出すインタビュー力”が大事なんですよね」――。

 そう言われることがよくあります。

 その場では「そうですね、情報を引き出すのは重要なことです」と答えていますが、実は取材の現場で「隠している本音を引き出そう」と思って努力することはほぼありません。なぜかというと事例制作では「顧客の本音」には、それほど重要性がないと考えているからです。そう思う理由は三つあります。

 第一にして最大の理由は「引き出しても書けないから」です。仮に引き出すインタビュー力によって、相手の隠された本音を引き出したとします。しかし、その本音が相手にとって「隠しておきたいこと」「公(おおやけ)にはしたくないこと」である場合、それを事例原稿に書くと、原稿チェックの段階で「書かないでください」と削除依頼が来ます。

 事例記事は新聞や週刊誌などの報道記事ではないので、この依頼を断ることはできません。事例とはそもそも表現に制約が多いものなのです。書けないことを聞いても仕方がありません。

 第二に、「一般会社員の本音に特に誰も興味がない」という理由があります。取材対象が大物政治家や芸能人のように、そのプライバシーあるいは発言にみんなが興味津々という相手なら、「ポロリ漏らした本音」には価値があります。

 しかし事例取材の対象は「一般会社員」です。読者にそういった興味は生じません。事例とは、製品選定の参考資料として読む業務文書であり、ゴシップ的な興味喚起は適切でありません。

 第三に、ポロリ漏らされる本音なるものは、たいてい「気分」や「感想」です。仮に取材対象が、ああ、これはもうお世辞ではなく本当の気持ちだと思える語調、タイミングで「○○社さん、いいよね」「○○さんいないとウチの仕事、もうまわんないんだよね」などと漏らしたとします。言われた企業側はうれしいし、横で聞いてる私も他人事ながら感動します。

 しかしこうした感想を文章にしても読む側(見込み客)はほとんど感動しません。理由は、「自分に関係ないし」、「感想だけならどうにでもいえる(ウソだってつける)」と思うからです。

この先は日経クロステック Active会員の登録が必要です

日経クロステック Activeは、IT/製造/建設各分野にかかわる企業向け製品・サービスについて、選択や導入を支援する情報サイトです。製品・サービス情報、導入事例などのコンテンツを多数掲載しています。初めてご覧になる際には、会員登録(無料)をお願いいたします。