IoT(モノのインターネット)を海外製造業は「稼げるIT」と見抜く。

 2015年5月、米PTCと、そのグループ会社でIoT向けアプリケーションの開発・実行環境を提供する米ThingWorxは、米国ボストンでIoTイベント「LiveWorx 2015」を開催。そこで講演した、IoTで稼ぐ企業の取り組みを紹介しよう。

[米シスメックス・アメリカ]
サービス費の抑制にIoT 販売台数も50%増

 米シスメックス・アメリカは、神戸市に本社を置くシスメックスの米州統括会社。病院などに、血液や免疫などの検査機器や保守サービスを提供している。2010年ごろまで、ある経営課題に悩み続けていた。

 その悩みとは「売り上げが伸びるほど、機器の保守サービスのコストがかさみ、利益を十分に確保できない」こと。背景には、米国ならではの地理的条件があった。保守サービス担当のエンジニアは病院などを訪問して、機器をメンテナンスする。ところが国土が広大な米国では、その移動時間は片道平均4時間。行って帰ってくるだけで、丸1日かかる。

 効率面の課題を抱えながら、顧客数は年々増加。対応のため、サービス担当エンジニアを毎年20人前後増やしてきた。エンジニアの人件費に加え、教育コストもかさむ。「サービス提供コストが年々増加し、利益を十分に確保できない経営リスクを抱えていた」と、シスメックス・アメリカでカスタマーケアシステムを担当するマーク・ダールバーグ シニアディレクターは話す。

●米シスメックス・アメリカは医療検査機器にIoTを適用しサポートサービスのコストを削減
●米シスメックス・アメリカは医療検査機器にIoTを適用しサポートサービスのコストを削減
写真はマーク・ダールバーグ シニアディレクター
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IoTで4時間の保守作業が20分に

 一方で、検査機器の稼働状況をつかむために組み込んでいたエージェントソフトの老朽化も進行。そこで、サービス提供コストを低減する新しいIoTシステムの開発に着手した。

 新システムは、マウス操作でIoTシステムを開発できる「ThingWorx」を採用。2人の開発者が6カ月で、機器に組み込むエージェントソフトと、そこからデータを収集して活用するアプリケーションから成るIoTシステムを開発した。集めるのは機器の稼働データに限り、検査結果や患者を特定できるデータは取得しないよう配慮した。

 サービスコストの削減に向けて加えた機能の1つが、較正機能。機器が正確に測定できているかどうかを遠隔で調べて修正するものだ。機器の稼働データを基に較正することで正確性を高め、検査プロセスも一部自動化。1回の較正時間はわずか20分で済むようになった。

 従来の現地作業では、サービス担当エンジニアがノートパソコンを持ち込み、専用の表計算シートに機器の表示データなどを入力しながら較正を進めていた。その作業時間は1回当たり4時間程度。新しい較正機能で作業スピードが12倍に向上したわけだ。

コールセンターから先回り電話

 コールセンターの担当者もIoTシステムを通して、各機器の状況を把握できる。一部の不具合は自動検知してコールセンターの担当者にアラームが届くようにした。

 これにより、病院担当者が気づく前に、コールセンターの担当者が病院に電話をして、先回り確認ができるようになった。病院の担当者から感謝されることも多いという。

 さらにコールセンター担当者は、IoTシステムを通して、病院に設置した機器の管理画面を遠隔で閲覧できる。これを見ながら電話で助言し、現地で稼働する機器の不調を解消できるようにもなった。

 IoTシステムを導入して以降、販売台数は、50%以上増えた。その一方で、サービス提供コストは減少。エンジニアを追加採用せずに済むようになり、2012年以降、利幅が増えた。「今後はさらにコストを抑えられるよう、IoTを駆使していきたい」と、ダールバーグ氏は語る。

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