技能伝承のツールは着実に進化している。では伝える内容はどうか。形式知化しにくいノウハウを適切に抽出して分かりやすく受け渡す、コンテンツ作りに知恵を絞る事例に学ぼう。
ダイキン工業
モデルに則した議論で考える力を鍛える
「知識は電子化しただけでは伝わらない。必要なのはベテランとの対話だ。対話を通じて初めて、若手は新たな気付きを得て知識の理解が深まり、自分のものになる」。こう指摘するのは、ダイキン工業空調生産本部商品開発グループの伊吹敏行氏だ。
エアコンを設計する滋賀製作所の開発部門での取り組みを見てみよう。同部門では、不具合の発注を減らすため「どういった不具合が起こり得るのか」「それを防ぐにはどんな点に配慮すべきなのか」を主体的に考える技術者を育成することを重視している。
そこで、構造化知識研究所が開発した知識整理手法「SSM(ストレス・ストレングス・モデル)」を採用。知識をデータベース化する取り組みを進めている。不具合の事象を「どこで、どんな部品で発生したのか」「どういった状況の下で発生したのか」など5つの切り口で分解し、データベースに登録するものだ。
重視するのが「対話」だ。知識をデータベースに登録するステップと、登録したデータベースを再利用するステップで必ず、ベテランと若手の対話を促している。SSMを通じて人材を育成するため、開発部門では所属する200人ほどの技術者を若手、中堅、ベテランで構成する5~6人のチームに振り分けている。各チームは週1回、1時間ほどを割いて、実際に起こった不具合を5つの切り口で分析。因果関係を整理したうえでデータベースに登録する。このとき、若手に考えさせながら、全員で議論するのがコツだ。
登録された不具合は、設計段階で3~4回実施するレビューで再利用する。自分が設計した仕様に対して想定される不具合をデータベースから見つけ出し、その対処方法と合わせてレビューするわけだ。レビュー時にはベテランが様々な意見を出すため、不具合に対する自分の設計を改めて考え直すきっかけとなる。