では、こうしたアジャイルプロセスを導入する際に、既存の契約形態をどのように見直せばよいのか。以下でそのアプローチを考える。

業界標準の技術で調達を楽にする

 まず、米国ではソフトウエア開発を内製化している場合が多く、企業間の契約で揉めることや変更に対する煩わしい契約がない点に着目したい。コスト低減や変更容易性を重視したアジャイルプロセスも適用しやすい。

 日本の場合、契約のトラブル回避や開発コスト低減のために内製化したくても、委託開発を続けてきたユーザー企業にはハードルが高い。そこで現実的に内製化するには、開発要員を派遣契約で調達することになる。

 ユーザー企業が派遣契約で要員調達する場合、各メンバーを管理するための体制や開発環境が必要となる。大規模開発であれば、多くの開発要員を集める難しさもある。マネジメント力にも高いスキルが求められる。

 ユーザー企業が契約上、最も気を使うべきなのは、情報流出などのセキュリティ管理と監視だろう。また個人をアルバイトやパートタイマーとして雇う場合は、社員と同様に社会保険の対象となり、雇用契約がユーザー企業と個人の間に必要となる(図7)。

図7●内製による開発要員は派遣契約で調達
図7●内製による開発要員は派遣契約で調達
派遣契約はアジャイルプロセスに適しており、米国で最も広く採用されている。ただしユーザー企業側にはマネジメント力が求められる
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 内製化を進めていくには、クラウドやオープンな技術を積極的に活用するのがよい。ハードウエアやネットワーク、開発ツールなどは、クラウドで提供されるサービスを活用し、ユーザー企業はアプリケーション開発に集中するわけだ。これにより、IT部門の負担を軽減できる。

 また業界標準の製品や技術を採用するのも大切だ。あまりメジャーではない開発言語や社内固有のミドルウエア、フレームワークなどを使っていると、要員調達が厳しくなる。生産性の低下や教育コストの増加も招きかねない。

 内製化をベースにしながら、ベンダーの支援を受ける方法もある。SIベンダーは、コスト低減のためにオフショア拠点の整備に力を入れている。ユーザー企業がソフトウエア開発コスト低減を目的に内製化しても、国内で開発するとその効果は期待しにくい。SIベンダーのオフショア拠点を利用するのも一つの方法だろう。

 このほかアーキテクチャー設計やプロジェクトマネジメントなど、特定分野に絞った支援をSIベンダーから受けて負担を減らす方法もある。

準委任契約は短い期間で繰り返す

 委託契約についてはどのように見直せばよいのか。準委任契約では、SIベンダー側に業務完成義務がないので、スコープが未確定のまま開発を開始したり、変更を開発途中で受け入れたりできる。このためアジャイルプロセスにも適用しやすい。

 しかし問題もある。それは「残業」と「曖昧さ」だ。残業については日本の大きな問題といっていい。生産性データをベースに工数見積もりを実施して契約した場合、作業が遅れて残業が多くなり、大幅なコスト超過となるケースがある。例えば20人が4カ月稼働すると80人月だが、1人当たり平均1日2時間残業すると、2時間×80日(4カ月)×20人で3200時間、つまり20人月分のコストが発生する計算だ。

 しかしベンダーが、これを請求できないケースもある。「人月」という曖昧な単位を利用しているため、暗黙の許容範囲が生まれてしまうのだ。

 米国では、タイムアンドマテリアル契約によって、実際に掛かった時間に対する契約となる。これならメンバーは終業時刻になれば、気兼ねなく帰宅できるだろう。契約時間と実作業時間が大幅に異なることは少ない。

 準委任契約の曖昧さは、人月だけではない。善管注意義務もそうだ。つまり、ユーザー企業が想定する成果を得られないケースもある。米国の実費償還契約やタイムアンドマテリアル契約のように、見積もり工数ではなく実績工数でユーザー企業が対価を支払うのであれば、SIベンダーにとって損失はない。しかしユーザー企業から見れば、善管注意義務を怠っているとか、開発要員のスキルに問題があるなどの理由でトラブルとなり得る。

 そこで提案したいのが、短い期間で準委任契約を繰り返し締結する方法である(図8)。スプリント単位か1カ月~四半期といった短い期間で準委任契約を繰り返す。こうすれば、直前の実績工数を参考にして、両者納得の上で契約の内容を高めていける。

図8●準委任契約の見直し例
図8●準委任契約の見直し例
短い期間に区切って準委任契約を繰り返し締結するのがポイントだ
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