カスタマサポートに、チャットボットを活用する例が増えてきた。チャットボットとのやり取りで問題が解決するようになれば、カスタマサポートの世界が大きく変わる可能性がある。ただし、企業向けに、カスタマーサポート分野のクラウドサービスを提供するZendeskの藤本寛社長は、「カスタマサポートの意義はもっと深いところにある」と語る。カスタマサポートの役割は、単にユーザーが抱える問題を解決するだけではないという。

(聞き手は岡部 一詩=日経FinTech


Zendesk 藤本 寛 社長
Zendesk 藤本 寛 社長
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カスタマサポートにチャットボットを採用ケースが増えている。

 チャットボットが普及すれば、人手によるカスタマサポートは不要という指摘もある。この分野が発展し、ユーザーが自己完結できるケースが増える可能性があるのは確かだ。ただし、現時点でチャットボットが回答できるのは、答えが分かっている問い合わせに限られる。

 それだけで済むなら良いが、カスタマサポートの意義はもっと深いところにある。この点は重要だ。カスタマサポートの目的は、ユーザーに生じた問題の解決にとどまらない。ユーザーに満足してもらうことにゴールがあるというのが私の考えだ。

 挑戦的な企業は、カスタマサポートをビジネスの中核に位置付けている。サービスの向上において、ユーザーとのコミュニケーションは貴重な財産。カスタマサポートによる過去の対応情報は、その源泉になる。

 好例があるゲーム会社だ。ゲームを開発する際、最初のバージョンは開発チームが中心となりリリースしている。ただし、その後のバージョンでは、カスタマサポートのチームも入って、開発を進める。ユーザーの声はサポートチームが把握しているからだ。

 ゲーム事業には、三つの壁がある。まず、ダウンロードしてもらう壁。次に、課金してもらう壁。さらに、一つのゲームを遊び続けてもらう壁だ。サポートチームは、最後の段階で中心的な役割を果たせる。このゲーム会社では、カスタマサポートがビジネスそのものを支援しているわけだ。

 別のネット企業では、カスタマサポートがプロフィットセンターになっている。元々、メールでの問い合わせにしか対応していなかったのを、電話でも受け付けるようにした。ここを有償化したのだ。マルチチャネルを武器にした例だ。

企業におけるマルチチャネル導入の機運は高まっているか。

 やはりスマートフォンの普及が、大きなパラダイムシフトになっている。そもそも、スマホ自体がマルチチャネル。コミュニケーションの在り方が変わってきたのに合わせて、日本企業も動き始めている。

 ただし、二つの課題があるようだ。一つは、チャネルによって、オペレーターに求められるスキルが異なる点。電話対応には即時性が必要だ。メールは即時性は低いものの、丁寧な返信をしなければならない。チャットはカジュアルだが、ユーザーからの情報が断片的という特性がある。

 チャネルはそろえたが、ツールがばらばらという課題がもう一つ。チャネル間で情報連携できている必要がある。電話、メール、チャットと別々の問い合わせが入ってきても、実は同じ内容かもしれない。

 当社は今春、電話、メール、チャットといった各チャネル向け製品をパッケージ化した。新たにチャットでのサポートを導入したいという需要は強い。これは、電話やメールを含めたカスタマサポートの形を総合的に変える契機になり得る。その際、価格的にも有利になるようにパッケージ製品を投入した。

今後の方針を教えて欲しい。

 我々は元々、ネットでのコミュニケーションを土台に考えており、今の時代に適している。一方で、電話主体のコールセンターなどとの相性が必ずしも最適というわけではない。製品開発や強化を進めるべき分野だ。

 当社は日本で約2000社の導入実績がある。オンラインサービス事業者など小規模事業者の顧客が多いが、数百人のコールセンターを抱える企業での導入事例も出てきている。

 こうした中で、当社自身のカスタマサポートも、さらに強化しないといけない。グローバルでは24時間365日での対応を実現しているが、日本ではまだ。2018年に入って、強化を進めているところだ。 

 カスタマサポートに熱い思いを持っている顧客は少なくない。それは、自分たちの製品・サービスを良くするために欠かせないと考えているからだ。カスタマサポートの地位向上を支援し続けるつもりだ。