政府は2018年4月13日、著作権侵害サイト(海賊版サイト)を巡る法整備に取りかかることを決めた。さらに法制度を整備するまでの緊急対策として、海賊版サイトへの削除要請や検挙が難しい場合、インターネット接続事業者(ISP)がサイトへの接続を遮断(ブロッキング)しても違法性はないとする方針を決めた。刑法が定める「緊急避難」の要件を満たし得るという。

 この方針に、ISPの業界団体である日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)は強く反発した。政府の方針決定の前日に当たる4月12日、「ブロッキング以外の手段などの議論を十分尽くしたともいえない中で、事実上権利者団体と政府だけでの結論を押し付けることは、通信の秘密の最大の当事者である国民の理解を得られるとは考えられない」として反対を表明した。

 政府がブロッキングの対象として指名した3サイト(漫画村、Anitube、Miomio)は、その後いずれも閉鎖や配信停止に追い込まれた。このこともあり「緊急避難としてブロッキングする前に、権利者側にもできることがあったのではないか」との批判も上がった。

 では、当の権利者側の団体はこれまでどのような対策をとってきたのか。音楽や動画、ゲームの海賊版対策を目的に2002年に設立され、2014年からは漫画とアニメの海賊版対策事業「Manga-Anime Guardians Project(MAGP)」も手掛けるコンテンツ海外流通促進機構(CODA)の後藤健郎代表理事に聞いた。

(聞き手は浅川 直輝=日経 xTECH/日経コンピュータ)


CODAはこれまで著作権を侵害する海賊版サイトに対し、どのような対策を実行してきたのか。

コンテンツ海外流通促進機構(CODA)の後藤健郎代表理事
コンテンツ海外流通促進機構(CODA)の後藤健郎代表理事
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 CODAは2002年の発足以来、米モーション・ピクチャー・アソシエーション(MPA)などと共同で、海外で違法に販売されている海賊版CD・DVDの取り締まりを実施してきた。

 オンライン動画サイトの取り締まりを始めたのは2009年頃だ。フィンガープリント技術による動画照合技術を使って侵害コンテンツを検知し、サイトに削除を要請する「自動コンテンツ監視・削除センター」を運営している。

 当初は中国で運営されているYouku(优酷网)やTudou(土豆网)、フランスのDailymotionなどを中心に削除依頼を出した。

 YoukuもTudouも削除に従わなかったが、日本の文化庁に相当する中国・国家版権局と協力関係を築いたほか、動画サイト運営者と「違法コンテンツを迅速に削除すれば、コンテンツの正規流通について国内権利者との交渉を橋渡しする」といった覚書を交わした。

 この結果、多くのサイトが(削除申請数に対して)99.9%以上の割合で応じてくれるようになった。今ではYoukuやTudou、bilibili(ビリビリ動画)などは日本の権利者から正規ライセンスを受け、合法的にコンテンツを配信している。

 その一方、当局の警告を無視して違法配信を続ける動画サイトもある。その代表がAnitubeとMiomioだ。

 中国の動画サイトであるMiomioにも、やはりCODAが国家版権局に権利侵害の情報を提供し、同局がMiomioに警告を出した結果、一時的に削除率が高まった。しばらくすると削除を無視するようになったが、2017年3月には版権局がMiomioに罰金刑を命じた。

 だがその後、Miomioは中国国内ユーザーからのアクセスのみ遮断する「ジオブロッキング」を実施した。一方、日本には海賊版コンテンツを配信し続けた。中国の当局に再度取り締まりを要請したが、「中国では侵害行為がなく、打ち手がない」と言われた。

 Anitubeの場合、運営主体はブラジル、ドメインがスウェーデン、サーバーは米国にあった。2016年にCODAを通じて国内コンテンツ企業7社が現地の警察に告訴状を出した。この結果、2017年10月には現地の検察が被疑者を起訴した。だが被疑者は公判に出席せず、その間もAnitubeの運用を続けている状況だった。

 Anitubeもジオブロッキングで当局の捜査から逃れようとしている。当初は著作権侵害に厳しく対処することで知られる米国からのアクセスのみブロックしていたが、ブラジルの警察や検察の動きに合わせ、ブラジルからのアクセスもブロックした。この結果、アクセス数調査サービスのSimilarWebによると、配信先の99%以上が日本になった。

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