オフショア開発の人件費が高騰している。対日オフショアで中国と双璧をなすベトナムでも、IT人材の賃金は年10%のペースで上昇しているとされる。しかし同国のIT最大手であるFPTコーポレーションのチュオン・ザー・ビン会長は対日オフショア事業について、「今のところ(顧客向け)単価を上げる考えはない」とする。背景にあるのは、国を挙げて推進するIT技術者の教育改革だ。大幅な技術者増を達成し、人件費高騰に一定の歯止めをかけたい考えだ。

(聞き手は岡部 一詩=日経 xTECH)


FPTコーポレーション チュオン・ザー・ビン会長
FPTコーポレーション チュオン・ザー・ビン会長
[画像のクリックで拡大表示]

ベトナムの人件費が上昇している。どういった対策を考えているか

 ベトナムのIT技術者を巡っては、人件費が高騰していると一律で見られがちだ。ただし中国やインドといった国々に比べると、依然として価格競争力は高い。特に当社は今のところ、単価を上げることは考えていない。生産性の向上など改善の余地がまだまだあるからだ。

 人件費高騰への手当てという側面もあるが、現在ベトナムでは国を挙げて、IT技術者を育成し、規模を拡大させようと取り組んでいる。ベトナムにはIT教育を手掛ける大学が約300校あり、ちょうど文部科学省が新しいITの教育モデルを導入しているところだ。

 ITを専門とする学生には大学での講義のほか、OJTで開発の現場を経験してもらう。即戦力を育て上げるのが目的だ。OJTに参加している時間も大学での講習時間に充てられる。

 数学や物理学などIT領域の専攻ではない学生も、第二資格としてソフトウエア開発やコンピュータサイエンスの資格を取得できるようにもした。各大学が自主的にカリキュラムを作れる。

 教育改革の対象は学生だけではない。教える側も変えていく。大学の教授だけではなく、企業の専門家などを招いて講義などをしてもらうわけだ。

 2020年までに、15万人のSEを新たに育て上げることが目標だ。

数学に強い国民性を生かす

昨今の業績を教えてほしい。

 当社の2017年度売上高は約20億ドル。前年比で11.5%増えた。日本市場でのビジネスは売上高が1億5800万ドルと、前年比で25%の成長だ。2018年度にはさらに27%伸ばし、2億ドルにすることを目標に据えている。

 2017年は大手顧客の新規開拓に力を注いできた。デジタルトランスフォーメーションを入り口に世界トップ企業に売り込み、フォーチュン500に入る企業の39社を獲得する成果を挙げられた。そのうち日本企業は24社を数える。自動車や物流、金融、大手建設業など様々な分野にわたっている。

特に注目している技術領域は。

 我々が成長エンジンと位置づけているのは人工知能(AI)、自動運転、IoT(インターネット・オブ・シングズ)、スマートファクトリーだ。

 いずれの分野でも核となるAIに関する人材は、世界的に不足している。様々な企業と話をしていて共通するのは、AIやビッグデータを巡る優秀な人材が米アップル(Apple)や米フェイスブック(Facebook)といったビッグプレーヤーに囲い込まれているという現実だ。

 ただ、嘆いていても仕方がない。ベトナムが有利なのは、数学に非常に強い国民性であること。国際的な数学試験でも、常にトップレベルの成績を出している。潜在力を生かせるようにすることが大切だ。

 当社には博士資格を持ったデータサイエンティストなどが50人以上在籍している。彼ら彼女らの知見を生かしながら、グループのFPT大学やその他の大学にスキルやノウハウを伝え、人材育成に生かしている。

自動運転技術にも力を入れている。

 自動運転は自ら研究開発を進めている。現在は準備段階から実際のビジネスにつなげる段階に差し掛かっており、自動車メーカーやOEMメーカーからの問い合わせが来ている。自動運転技術は多岐にわたるが、既に一部の分野では日本のOEMメーカー2社と共同開発に取り組んでいる。建機や農機など、乗用車以外の四輪車や二輪車メーカーとも話をしている。コネクテッドカーや電気自動車の研究開発を含め、これからも投資していく。