米アリス(ARRIS)傘下の米ラッカスネットワークスは、企業向けの無線LAN機器と有線LAN機器を手がけるメーカーだ。同社が持つ技術の優位性や、ケーブルテレビ向け伝送装置などを手がけるアリスによる買収が今後生みだす効果について、ラッカスネットワークスのラビノヴィッツ社長に聞いた。

(聞き手は山崎 洋一=日経 xTECH

多くのメーカーがWi-Fi機器を手がけている。その中におけるラッカスの優位点は。

米ラッカスネットワークス 社長 ダン・ラビノヴィッツ氏
米ラッカスネットワークス 社長 ダン・ラビノヴィッツ氏
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 まず、Wi-Fiのアクセスポイント(AP)を管理するコントローラーが拡張性に優れている。コントローラーは仮想化に対応しており、「アクティブクラスター」と呼ぶ複数構成で3万のAPと30万のクライアントをサポートする。通信事業者などのサービスプロバイダーにとっては、大規模なWi-Fiネットワークを一貫性のある通信状態で提供できる。また、APをコントロールするための伝送路(コントロールプレーン)とデータを送るための伝送路(データプレーン)が独立して動作しているので、コントローラーが故障しても運用可能だ。別の言い方をすれば、コントローラーがシングルポイントオブフェイラーになり得ない。

 APは内蔵アンテナを使用している。ふたを開けて中身をみると、アンテナの形状自体が違うと分かる。だがラッカスらしさを発揮しているのは、実はソフトウエアだ。機械学習を用いて、全クライアントから出る全パケットについてスループットをチェックし、それに応じて各クライアントのスループットが最適になるようにアンテナパターンを変更している。この技術をBeamFlexという。

 この仕組みがあるので、ラッカスのAPはスタジアム、会議場、屋外、バスや電車の車内といった同時接続数が極めて多い高密度のケースでも実力を発揮する。最近は、教室でビデオを視聴させながら授業をするケースもある。こうした場所でも、アンテナの設置場所や生徒の居場所を問わず、動画再生を途切れさせずにサービスを提供できる。このメリットは、トータルコストに差が出ると説明すると分かってもらえる。ある一定人数にWi-Fiを提供するために必要なAPの数を減らせるからだ。低消費電力であることもメリットだ。

 ラッカスは低消費電力、CPU使用率の低さなどの特徴を持つイーサネットスイッチ製品群も手がけている。イーサネットスイッチは、設定(コンフィグ)をネットワークを介してほかのスイッチに展開するといった機能も備える。

買収により米アリス傘下になったが、これによってユーザー(企業)はどのようなメリットを享受できるようになるか。

 サービスプロバイダーの顧客は、より広範な製品を利用可能になる。また、アリスの製品の中にはラッカスの技術を使っているものがあるし、ラッカスのイーサネットスイッチの次世代製品は、アリスのCMTS(Cable Modem Termination System)のインフラの一部になる。

 アリスがラッカスを買収したきっかけのひとつは、事業を多角化し大企業向けマーケットで地歩を固めるという戦略があったから。ラッカスのブランドはそのまま継承するので、大企業など既存のラッカスの顧客にとって違いはない。ただ、宿泊施設などの顧客は、今後アリスが持つビデオ関連の技術や製品群への関心が高まるのではないか。

 アリスは家庭向けの製品でも定評がある企業だが、「(スマートスピーカーなど)音声で指示を出す」など家庭から入り始め企業へと展開されていく技術もある。こうした技術は今後、ラッカスの強みになっていくと考えている。

Wi-Fiそのものには、現在どのような課題があると考えるか。

 Wi-Fiの認証において少し遅れをとっていると思う。認証の規格としては数年前にできたHotspot 2.0があるが、まだそれほど導入が進んでいない。公衆無線LANに接続したときにページのリダイレクトが行われれないケースがあるが、こうしたケースを受けてようやくHotspot 2.0が導入され始めているという状況だ。

 AP間のローミングに関しては、我々は先手を打って投資を続けてきたが、現状では必ずしも完璧とはいえない状況にある。これはクライアント側の挙動が問題となるためだ。IEEE 802.11k/r/vという規格がだいぶ前に標準化されているが、実際にはあまり使われていない。我々の技術は、こうした規格を満たすパフォーマンスを提供できるので、顧客のユーザー体験は良くなっていくと考えている。

 少し話しは変わるが、次世代携帯電話ネットワークの5Gは、ネットワークの配備に非常に高いコストがかかるだろう。5Gはスモールセルという設計思想になるためだ。多数の基地局を必要とするため移行には時間もかかるのではないか。携帯電話事業者の立場からすると、ARPU(契約当たり月間平均収入)は下がりつつあるのに対し、トラフィック消費量は増えている。そのギャップを埋めるのはWi-Fiだと考えている。

 ユーザーの要求は、非常に厳しく贅沢になってきている。例えば4Kビデオを途切れることなく視聴したいという要求が高まってくると、良いサービスをより低価格で提供できるという点で、我々の強みを生かせると考えている。