「春闘の3%(の賃上げ)という話を聞いて、率直な感想は『古っ!』という感じだ」――。そう語るのはサイボウズの青野慶久社長だ。2018年2月26日に開催された2018年12月期の事業戦略説明会で日経コンピュータ記者の質問に答え、2018年1月に安倍首相が経済3団体に要請した「3%の賃上げ」を一刀両断にした。

「経営者対労働者という構図や画一的な考え方から抜け出さないと、自分らしい働き方や生き方はできない」と語るサイボウズの青野社長
「経営者対労働者という構図や画一的な考え方から抜け出さないと、自分らしい働き方や生き方はできない」と語るサイボウズの青野社長
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 青野社長が問題視するのは、もちろん賃上げ率の多寡ではない。事の本質は「経営者対労働者という構図や、(賃金を)一律に何とかしようという考え方から抜け出さないと、私たちは楽しくなれないし、自分らしい働き方や生き方はできない」という点だと喝破する。

 「これからの時代は給料も1人ひとり見ないといけない。横並びに何%どうしましょうではなく、この人はどんな生活をしているのか、給料をいくらほしいのか、この人が給料を増やしたいならばどうすれば実現できるのか。そうした点をパーソナライズして対応しないといけない」

 青野社長がそこまで堂々と主張する背景には、サイボウズが以前から働き方の多様化に取り組み続けていることが挙げられる。副業は2012年から許可しているほか、2017年には副業としてサイボウズに勤めたいという人の受け入れを始めている。退職しても最長6年間は復帰可能な「育自分休暇制度」や地方出身の社員が生まれ故郷で自社製品の営業活動に取り組む「ふるさと営業グループ」、子供の預け先がない場合の「子連れ出勤制度」など、青野社長のコミットメントのもと多彩な人事制度を運用している。

 2017年9月には、日本経済新聞に「働き方改革に関するお詫び」と題した1面広告を掲載。その中で「なんですか、そのありがた迷惑なプレミアムフライデーとやらは……」と書いたところ、広告を掲載したその日にプレミアムフライデーの旗振り役である経済産業省の企画担当者から青野社長に電話が来たという。

 怒られる。そう思って身構えた青野社長だったが、聞こえてきたのは意外な言葉だった。「いじっていただいて、ありがとうございます」。その後、2018年2月24日に行われたプレミアムフライデーの1周年イベントには青野社長も招かれて登壇。「今はプレミアムフライデーが月末金曜午後3時と画一的になっているが、もっとみんなで茶化して盛り上げて、もっと自由に休めるような気運を盛り上げていきたいね、と経産省と話している」。

 同社は2018年に大阪の拠点を2倍に増床。広島、福岡、横浜でもソフトウエア開発などを担う拠点の新設を検討中だ。「都会の真ん中に満員電車で通うのでなく、多様な働き方をできる人を増やしたい」と語るように、青野社長は働き方の多様化を追求し続ける。