焦点はアプリケーションへ――インフラを手掛けるハードベンダーの“アプリシフト”が鮮明になってきた。

 ストレージ機器大手の米EMC。会長兼CEO(最高経営責任者) のジョー・トゥッチ氏は、2014年5月の年次イベントで「第3のプラットフォームを提供していきたい」と明言した。「クラウド」「ビッグデータ」「モビリティ」「ソーシャル」という4要素からなる第3のプラットフォームは、米IDCが提唱し、ビジネスのイノベーションを起こす技術基盤として広く知られてきた。EMCは、そこに注力することで「次世代アプリを生み出す場を提供する企業」へ発展していく道筋を示した。

 同じく5月、ネットワーク機器大手の米シスコシステムズの年次イベントでは、「IT分野でナンバー1の企業になる」と、ジョン・チェンバース会長兼CEOが宣言。クラウド事業への参入を通じて、世の中にある各種サービスの仲介者となり、顧客のアプリ開発を支援する構えだ。

 アプリ指向のインフラを標榜する動きに、SIベンダーも敏感な反応を見せる。伊藤忠テクノソリューションズ(CTC) 常務執行役員 ITサービス事業グループ担当役員兼CTOの大久保忠崇氏は「1年に2回、米IBMや米ヒューレット・パッカード、EMCやシスコなどの幹部と現地で情報交換しているが、アプリ受託からインフラ構築まで、フルにSIを提供できる当社への期待は大きくなってきた」と感じている。

主戦場はIaaSからPaaSへ

 アプリシフトの背景には、インフラへの評価が「コスト削減や効率化」から、「ビジネスに貢献するアプリを生み出せるか」という点に移ってきたことがある。

 こうした潮流は、IaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)からPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)へと、主戦場を変えつつある。米アマゾン・ウェブ・サービスを手本とするサービスが増えているように、「IaaSは完成形が見えてきたし、儲からなくなってきた。代わって、その上のソフトも提供するPaaSが主戦場になってきた」(ガートナー ジャパン リサーチ部門 ITインフラストラクチャ バイスプレジデント兼最上級アナリスト 亦賀忠明氏)。

 データベース(DB)やAPサーバー、開発フレームワークといったミドルウエアを提供するPaaSは、アプリ開発の品質やスピードに直結する。米セールスフォース・ドットコム「Force.com」や米グーグル「Google App Engine」、米マイクロソフト「Microsoft Azure」などに加え、2014年2月には米IBMが「Bluemix(開発コード名)」で参入。PaaSの開発競争が活発になってきた。IDC Japan ITスペンディング グループマネージャーの廣瀬弥生氏は、「ビッグデータ関連や産業特化型など、“キラーアプリを作りたい”と開発者に思わせるPaaSが勝者になる」と見る。

 インフラの価値が変わってきた今、従来のようにハードの差異化に終始していては、PaaSベンダーにインフラをさらわれかねない。そうした危機感を持ったハードベンダーが、アプリシフトでPaaS領域に攻め入ることは、当然の決断とも言える。

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