前回前々回の2回を使って私は小島に「“理解が浅い人”と“理解が深い人”の8つの違い」を説明しました。

 私が小島に,特に重点的に指導していたのは,「仕事に対する基礎的な能力の向上」でした。具体的には「仕事を速くする」,「理解を深くする」,「記憶力を高める」などがあります。そして,「意見を通せるようにする」ということも含まれます。今回はこのことに関して小島を指導したときのエピソードを紹介します。

 今回は,“仕事に役立つ7つの科目”の「(5)思考力」に関する「理論構築メソッド」がテーマです。

情報システム部長からの指示

 あるとき,我々の上司である情報システム部長から小島に「システム開発部の中堅エンジニアの研修を企画するよう」指示がありました。

 システム開発部は,会社で使う情報システムの開発を担当する部隊で,岡田,坂本,藤井,小島も以前はシステム開発部に所属し,エンジニアとしてシステム設計,開発を担当していました。

 システム開発部のメンバーは,我々やユーザー部門である営業企画の人達がいる本社ビルからかなり離れたシステムセンターに常駐しており,営業企画や販社の人達と直接やりとりができないので,本社勤務である我々のチームがシステム要件の調整,取りまとめを行う役割分担になっていました。

 このため,システム開発部のメンバーは,真のエンドユーザーである「販社の人達」の考え,主張を直接的に聞いたり,彼・彼女らの言動を見ることができない環境にあり,情報システム部長はこれを問題と感じていました。

 本来,システム開発をする人は,ユーザーの生の声,意見を聞かなくてはなりませんが,我々の環境はそういう状況になっていなかったのです。そこで,情シス部長は,システム開発部の「中堅エンジニア」が交代で我々のチームで研修という形で仕事をして,いろいろ学んでシステム開発に活かしてほしいと考えました。

 そして,一番最近までシステム開発部にいた小島を検討担当に指名したのです。情シス部長が小島に研修企画を指示したのはそういう背景でした。私は,小島に考えるように指示し,中身をチェックしながら,小島に「意見を通すための考え方」を教えようとしました。

意見を通すための「話の固め方」

芦屋:いいか。では,小島の考えた研修企画を見せてくれないか。

小島:まず,書いてみましたので,見てください。


システム開発部・中堅エンジニア向け研修について(案)

販社システム設計G 小島
1.内容
  • システム開発部の中堅エンジニアに販社システム設計Gに研修にきてもらい,営業企画や販社の考えをダイレクトに聴くことで,実感してもらう。

2.狙い・効果
  • 研修を通して,要件定義力,交渉力,折衝力などを向上させる。
  • 研修終了後は,システム開発部に戻って,若手エンジニアにフィードバックすることで,スキル,ノウハウ,思想などをシステム開発部全体に広げる。

3.期間
  • 開始は来年4月より。
  • 研修期間は,一人あたり3カ月程度。
  • 一回に1名~2名を想定。

4.具体的な研修(何をしてもらうか)
  • 我々が日常実施している仕事をやってもらう。
    (販社向け提案資料作成,システム概要設計,関連部門との会議調整,プロジェクト管理全般など)