米アップルの「iPhone 3G」が7月11日からいよいよ国内でも販売される。iPhone 3Gの特徴や魅力については既に多くのメディアで紹介され,残る注目は端末価格と通信料金だろう。

 iPhone 3Gの米国での端末価格は8Gバイト・モデルで199ドル,16Gバイト・モデルで299ドル。AT&Tモビリティの通信料金は2年契約の前提で月額69.99ドル~(内訳は定額データ通信が月額30ドル,音声通話が月額39.99ドル~)となっている。国内でも同様な端末価格/通信料金になるのだろうか。ソフトバンクモバイルは今月中に発表する予定だが,ここでは事業者の事情を交えながら勝手に予測してみたい。

収益共有モデルは廃止されたが…

 アップルはiPhone 3Gで収益共有(レベニュシェア)モデルを廃止(注1)した。収益共有モデルとは初代iPhoneで採用していた契約形態で,事業者にiPhone向け通信サービスの独占提供を認める代わりに,通信料収入の一部をアップルが受け取るというものである。アップルが収益共有モデルで受け取っていた額は公表されていないが,海外では通信料収入の「10%以上」や「30~50%」といった噂が出ている。

(注1)正確にはアップルが収益共有モデルの廃止を発表したわけではない。米国でiPhone 3G向けの通信サービスを提供する携帯電話事業者,米AT&Tモビリティの発表による。

 アップルが収益共有モデルを廃止したことは事業者にとって朗報である。アップルはただでさえ,iPhone(端末)とiTunes Store(上位サービス)を組み合わせた垂直統合モデルを展開している。iモードやEZweb,Yahoo!ケータイといった事業者が提供する上位サービスは使えないようになっており,事業者が得る利益はもともと少ない。加えて通信料収入の一部までアップルに徴収されるとなれば,事業者にとっては受け入れ難い話である。

 イー・モバイルの千本倖生代表取締役会長兼CEOも,6月10日の端末発表会で「事業者にとっては共存し難いモデル。(端末シェアで世界1位の)フィンランドのノキアですら採用していない。事業者にほとんど利益は入らず,生存し得るビジネスモデルかどうか疑問」とコメントしている(関連記事)。これが本音だろう。

 ただ,米国の端末価格と通信料金を注意深く見ると,収益共有モデルが単になくなったわけではないことが分かる。どうやら収益共有モデルでアップルに払っていた通信料収入の一部が,日本で問題となった端末販売奨励金に変わったようなのだ。

 初代iPhoneの端末価格は4Gバイト・モデルが399ドル,8Gバイト・モデルが499ドル。これがiPhone 3Gではフラッシュ・ドライブの容量が増え,3G(HDSPA)のデータ通信やGPS(全地球測位システム)などの機能が強化されたにもかかわらず,199~299ドルと約半額に値下げされた。この値下げは,大量調達による部材コストの削減や技術革新ではとても成し遂げられるものではない。端末販売奨励金が投入されているという見方が一般的である。アップルが収益共有モデルを廃止した代わりに,AT&Tモビリティが端末販売奨励金を負担するわけだ。

 しかも,この端末販売奨励金は日本で問題となったものとは少し性質が異なる。日本では端末販売奨励金を毎月の通信料金で回収していることが問題となったが,iPhone 3GではAT&Tモビリティの純粋な持ち出しが多分に含まれている可能性が高いのだ。AT&TモビリティがiPhone 3G向けに用意している料金体系は,BlackBerryやPDA向けと同じ(音声通話と定額データ通信をセットで契約した場合)で特別に高いわけではない。AT&TモビリティがiPhone 3Gで負担している端末販売奨励金は1台当たり「数百ドル」(業界アナリスト)とも言われる。

米国と同レベルの値付けに期待

 では,日本における端末価格と通信料金はどうなるのだろうか。一部報道では「T-Mobileがドイツで月額69ユーロ(1ユーロ=167円換算で1万1523円)の料金プランの契約を前提に,iPhone 3Gの8ギガ・モデルを1ユーロ(同167円)で発売する」という話も出ている。ただこれは,事業者が端末販売奨励金をさらに積み増してその分を毎月の通信料金で回収するもので総務省の方針(注2)に反する。端末価格を安くして通信料金を高くすることはないだろう。

(注2)総務省は2007年9月,携帯電話の端末価格と通信料金の透明性や公平性を高める狙いで,各事業者に端末価格と通信料金の内訳を明確化した分離プランの導入を要請している(関連記事)。

 逆にソフトバンクモバイルが端末販売奨励金の持ち出しを軽減したいと考えれば,(1)定価を高くして売る,あるいは(2)通信料金を高く設定することも考えられる。ただ,いずれも現実的には難しいと見ている。

 まず(1)は割賦販売方式が広く浸透した日本の現状を考えるとあり得るが,199~299ドルというインパクトが薄れるようなことはしないはずだ。ソフトバンクの孫正義社長も「他メーカーの高機能モデルよりも魅力的な価格となるだろう」(注3)と発言している(関連記事)。

(注3)さらに孫社長はソフトバンク・ショップとアップル・ストアの両方で販売するとしていることから,割賦販売方式の「新スーパーボーナス」は対象外となる可能性が高い。仮に対象となった場合も月額の通信料金を割り引く「特別割引」の適用はさすがにないだろう。

 同様に(2)の通信料金も,音声通話に月額980円のホワイトプランを適用できないとなればインパクトが薄れ,ユーザーへの印象が悪い。定額データ通信も現状の「パケットし放題」は決して安くない。PCサイトブラウザは月額1029円~5985円,PCサイトダイレクトが月額1029円~9800円で,iPhone 3G向けに高い料金を設定すればユーザーの反発は必至だ(注4)。ホワイトプランと定額データ通信のセット契約が前提となる可能性が高い。

(注4)逆に現状より安い料金をiPhone向けに用意する理由も見当たらない。わざわざ安い料金を用意しなくても大量のユーザーを獲得できる可能性が高いからだ。

 結局,端末価格は2万円台半ば~4万円程度,音声通話はホワイトプラン,定額データ通信はPCサイトブラウザの料金がそのまま適用されるのではないか。日本での端末価格と通信料金が米国と大きく変わるようなことはないと考える。

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 散々語り尽くされていることだが,アップルの戦略は実によく練られている。収益共有モデルを廃止する代わりに端末販売奨励金を事業者に負担させることで,ユーザーは端末を購入しやすくなった。iPhone 3Gのヒットは間違いないだろう。圧巻はiPhone向けアプリケーションの提供サイト「iPhone App Store」だ。iPhone SDKを利用すれば誰でもiPhone向けのアプリケーションを開発できるが,同サイトで配布しなければならず,開発者が有償で提供する場合は販売収入の30%がアップルに入る(関連記事)。「テナント料金」としては高過ぎると思うが,それがまかり通ってしまうのがアップルの凄さである。

 iPhone 3Gで企業向け機能を強化した点も見逃せない。Exchange Serverとの連携機能やCisco IPsec VPNなどを搭載し,iPhone 3Gが企業でも利用できることをアピールした。今後,iPhone 3Gを活用した企業向けソリューションが増えるのは確実で,これらもiPhone App Storeを通じて提供されることになる。企業向けアプリケーションは単価が高いので,アップルの収入も大きくなる。iPhone 3Gの発売に合わせて.Macのサービスを強化してMobileMeとして投入するなど,アップルのしたたかさには脱帽するばかりである。