写真●NTT東日本の江部努社長と(右から一人目),ソフトバンクの孫正義社長(左から二人目)が激論を交わせた,総務省の接続政策委員会 第2回合同ヒアリング
写真●NTT東日本の江部努社長と(右から一人目),ソフトバンクの孫正義社長(左から二人目)が激論を交わせた,総務省の接続政策委員会 第2回合同ヒアリング
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 総務省は2009年3月16日,電気通信市場の環境変化に対応した接続ルールの在り方を検討するため,「電気通信事業政策部会・接続政策委員会第2回合同ヒアリング」を開催した(写真)。総務省は,これまでの固定通信を中心とした接続ルールの策定に加え,移動体通信においても接続料算定の透明性向上や通信プラットフォーム機能(関連記事)のオープン化などを検討する意向を示している。

 NTTドコモやKDDI,イー・モバイルなどが意見陳述した第1回の合同ヒアリングに続き(関連記事),今回の第2回合同ヒアリングでは,NTT東西地域会社,ソフトバンク,テレコムサービス協会,関西ブロードバンドの5社が意見を陳述した。

「自社グループ内通話料無料は接続料で補填している」とNTT東日本

 NTT東日本の江部努社長は,固定通信市場においては「ドライカッパやダーク・ファイバのアンバンドル/オープン化は十分実現できており,他事業者は自前のIPネットワークを構築可能」と公正な競争環境にあることを主張。NGNのプラットフォーム機能についても「(総務省の接続委員会の議論で)現状のNGNは,通信機能は備えているが独立したプラットフォーム機能は備えていないという結論に達している。将来の発展が見込まれるプラットフォーム分野については,サービスの芽を摘むことがないように,事前規制ではなく事後規制にすべき」と,新たな規制の導入に慎重に取り組むよう訴えた。

 また携帯電話の接続料については,「携帯電話市場は固定電話市場の2倍の規模に達しており,固定通信市場と比べても影響力は大きい」と指摘。「自社グループ内の通話を無料とするサービスを提供する事業者は,無料通話の赤字を他の事業者に適用する接続料で補填している懸念がある」と,KDDIやソフトバンク・グループなどに対する批判を展開した。「有限希少な電波を使ってサービスを展開している移動通信には,なんらかの形で接続料の透明性を確保するべき」と主張した。

 NTT西日本の大竹伸一社長も,主な意見は東日本と同様と説明。特に西日本地域では,NTTの光アクセスのシェアが5割を切る都道府県があり,CATV事業者や電力系事業者と健全な設備競争が機能している状態にあることを訴えた。

「移動通信の接続料格差はあって当然」とSB孫社長

 続いて発言したソフトバンクの孫正義社長は,「固定通信の光ブロードバンド市場はNTT東西が独占し,携帯電話市場ではNTTドコモが支配的事業者となっている。結果として公正な競争が実現しておらず,エンドユーザーの利益が損なわれている」とNTT批判を展開。移動体通信の接続料だけでなく固定通信も含めて,利用者本位の接続ルールを策定すべきと訴えた。

 具体的には,NTT東西の光ファイバの1分岐貸しが見送りとなり(関連記事),同社は光アクセス事業から事実上徹底を余儀なくされたと主張。またNTT東西のドライカッパの料金についても,高止まりしているのではという疑問を投げかけた。

 また同社は,移動体通信において電波の距離が飛びやすい800MHz帯が割り当てられておらず,ネットワークの構築においてNTTドコモやKDDIよりもコストがかかっていると主張。公正競争の前提となるイコール・フィッティングがなされていない状況を考慮すべきとした。

 一方でNTTドコモが主張する,ソフトバンクモバイルの接続料が高止まりしているという批判に対しては(関連記事),「保有する周波数帯や事業規模,調達規模,参入時期が違えば,接続料水準は同一にならないのは当然。逆に日本は海外の状況と比較すると,事業者間の接続料の格差は少ない」という反論を展開した。

 また移動通信の接続料を値下げしても,発信と着信のトラフィックで収入と支払いが相殺されるため,エンドユーザーへの料金には反映されないと指摘。「結果的に携帯電話事業者から固定通信事業者への支払いが増える形になる。NTT東西やNTTコミュニケーションズが54億円の増益になるだけ」とし,移動通信の接続料算定については,透明性のある形で慎重に議論を進めるべきと主張した。

 テレコムサービス協会の今井恵一政策委員会委員長は「現状のNTT東西のNGNにはプラットフォーム機能は存在しないが,NGNの発展のためにはプラットフォーム機能の早期の充実が不可欠」と説明。NTT東西だけではなく,サードパーティのプラットフォーム構築を可能とするような,新たな接続ルールを求めた。

 関西ブロードバンドの三須久社長は,同社が取り組むデジタル・デバイド地域へのブロードバンド・サービスの提供が,ビジネス的に困難である状況を指摘。特にNTTのダーク・ファイバが存在しない局において,WDMや衛星通信など代替となる通信手段が高額となり,エンドユーザーに対して安価なサービスを提供することが難しい点を挙げた。解決策としては,NTT接続約款34条の2で規定しているダーク・ファイバ提供が不可となる接続ルールを見直し,国や地方自治体が支援するような枠組みを含めて検討していくべきと主張した。

孫社長の主張にNTT東の江部社長が気色ばんで反論

 意見陳述の後は,委員による質問に各出席者が答えた。この中で,ソフトバンクの孫社長とNTT東日本の江部社長が激論を交わす場面が目立った。

 孫社長が訴えたドライカッパの料金は高止まりしているのではという主張について,NTT東日本の江部社長は「透明性のある厳密なルールに基づいて料金を算定し,それを総務省に認可してもらっている。これ以上どんな透明性が必要なのか」と気色ばんで反論した。

 一方で江部社長が訴えた,自社グループ内での通話料無料サービスは接続料で補填しているという懸念について,ソフトバンクの孫社長は「言っている意味が分からない。接続料は透明性のあるルールで作ればよく,エンドユーザーへの料金は競争環境で設定するもの」と反論。この点については江部社長は「コストに基づく透明性のあるルールが無い中で,このようなサービスを提供することが問題。透明性のあるルールがあれば問題ない」という考えを示した。