総務省は2009年1月22日,通信プラットフォーム研究会の第9回会合を開催した。最終回となる今回は,構成員である野村総合研究所情報・通信コンサルティング部の北俊一上級コンサルタントが,第8回会合で示した報告書案(関連記事)の施策による経済効果を説明した。さらに報告書案への意見募集について,総務省が考え方を示した。

 同研究会が第8回会合で出した報告書案は,(1)モバイルビジネスにおける認証・課金プラットフォームの多様化に向けた環境整備,(2)端末APIなどの互換性向上に向けた検討,(3)携帯電話事業者を変更してもメールやコンテンツを引き継げるようなモバイル・ポータビリティ実現に向けた検討,(4)ネットワークをまたいで共通のIDで認証可能な認証基盤の相互運用に向けた検討,(5)コンテンツ配信効果の計測のあり方に関する検討,(6)ライフログなどを活用した事業などの展開に関する基本ルールの検討,という6項目の施策を挙げている。この中から北氏は(1)の認証・課金の多様化による経済効果と,(3)モバイル・ポータビリティに関する経済効果を試算した。

携帯の課金手段をPCや家電向けECサイトに開放

 (1)に関しては,携帯電話の課金手段を,パソコンやデジタルテレビ,ポータブルゲーム機上のECサイトでも利用できるよう開放することで,ECの利用促進をもたらす効果があると指摘。これによってEC市場が2.47兆円拡大するとした。さらに商品代金のクレジット・カード決済を携帯電話料金の課金方法と同様の仕組みでできるようすれば,モバイルで扱える商品の上限金額を引き上げられる。これによって,現在のEC市場3.3兆円のうち7000億円を占めているモバイルのEC市場は,その比率を拡大。EC市場全体の多くの部分をモバイルECが占めるようになるとした。

 (3)については,携帯電話事業者を変えても普遍的なメール・アドレスをISPなどが提供することによって1074億円の市場が生まれると試算。メール・アドレスのポータビリティによって携帯電話事業者変更の増加も見込まれるとし,端末販売の拡大による1278億円の効果もあるとした。

 さらに北氏は,研究会が提案する施策はMVNO(仮想移動体事業者)の登場をより促す効果があるとし,多様なMVNOビジネスの発展を期待した。今回の北氏の試算は,研究会の参考資料として掲載される。

100項目以上の意見について総務省が考え方を回答

 続く報告書案に対する意見については,第8回の会合の後,2008年10月24日から11月21日までの募集期間に25件が集まった。通信事業者から業界団体,ネット事業者などから100項目以上にも上る意見が寄せられたが,それぞれについて総務省が考え方を示し,報告書案に反映した。

 例えば,NTTドコモやソフトバンク・グループによる「モバイルビジネスにおけるプラットフォームの多様性確保を進めていくには,事業者間のコスト負担や責任区分などに関する検討を行い,環境整備を進めていくことが重要」という意見について,「通信サービスの提供者とプラットフォーム事業者の責任分担関係が契約約款等において明確にされることが必要」といった一文を明記した。この他,いわゆるライフログの活用についてヤフーから寄せられた「(ライフログの修正など)利用者の要望に無制限に対応することを事業者に義務付けるような報告書案の表現は修正すべき」という意見については,「ライフログ等を活用した事業展開を行う場合の社会的ルールの整備を図ることにより,事業の健全な発展と利用者の権利保護の双方が確保されることが必要」と回答。研究会などの場でコンセンサスを形成していく方向性を見せた。なお寄せられた多くの意見は,脚注として報告書に記載。様々な立場のプレーヤーの意見を併記することで,報告書全体ではバランスを取っている。

 通信プラットフォーム研究会は今回で終了となる。今後は報告書で示した上記の6つの項目の施策を実現するために,それぞれ協議会やフォーラムが立ち上がる予定。これらの場所で研究会が示した,プラットフォームの多様化による新ビジネスの促進への検討が進められる。

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