クアルコムジャパンは6月8日,米クアルコムが推進するモバイル端末向けの動画配信仕様「MediaFLO」の最新動向を紹介する「MediaFLOカンファレンス 2007」を開催した。MediaFLOとは,米クアルコムが開発した携帯端末向けの放送技術で,携帯電話とは別の放送用周波数を使って映像を配信する。リアルタイム放送と蓄積型放送を組み合わせてサービス提供できるという特徴を持つ。

 カンファレンスには,米クアルコムでMediaFLO事業を統括するオマール・ジャベード MediaFLOテクノロジ部門ビジネスディベロプメント バイス・プレジデントや,MediaFLOの標準化を推進する団体「FLOフォーラム」のカミール・グライスキ・プレジデント,さらにはKDDIとクアルコムジャパンが出資し,国内でMediaFLOの事業化を企画するメディアフロージャパン企画(関連記事)の増田和彦社長,ソフトバンクが全額出資する企画会社のモバイルメディア企画(関連記事)の矢吹雅彦社長が参加するなど,国内外のキーパーソンが集結した。

 カンファレンスでは,まずジャベード氏(写真1)がMediaFLOの米国での状況を説明した。米国では,クアルコム全額出資によるMediaFLOのサービス提供会社が周波数を取得し,そのインフラを使って米ベライゾン・ワイヤレスが2007年3月1日に商用サービスを開始している。ジャベード氏は,韓国サムスン電子(写真2)と韓国LG電子から2機種のMediaFLO対応端末が登場したことや,MTVやコメディ・セントラルなど米国の有力コンテンツ・プロバイダがMediaFLO上で放送サービスを提供している点などを紹介。順調にサービスが立ち上がりつつあることをアピールした。


写真1●米クアルコムMediaFLOテクノロジ部門のオマール・ジャベード ビジネスディベロプメント バイス・プレジデント
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写真2●米ベライゾン・ワイヤレスが米国内で販売しているMediaFLO対応端末(韓国サムスン製)。会場内ではローカルに保存したファイルからコンテンツを再生し,MediaFLOサービスを擬似的に再現した
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 またジャベード氏は,第2世代のMediaFLOのチップセットで,日本のワンセグで使われている配信方式のISDB-Tや,欧州版モバイル向け放送技術であるDVB-Hにも対応させる方針を明らかにした。


写真3●ユーザーへのアンケート結果
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 続いて登壇した米クアルコム MediaFLOテクノロジ部門のジム・コイヤー プロダクトマネージメント スタッフ・プロダクト・マネージャは,米国のMediaFLOのユーザー像について紹介した(写真3)。

 コイヤー氏によると,サービス開始前は30代前後の男性の利用者が多いと予想していたという。ところが実際は,性別や年齢などユーザー層はバラエティ豊かだった。コンテンツに関しては,スポーツとニュースに人気が集まるという予想に反して,音楽クリップなど幅広いジャンルが視聴されているという。また1回当たりの視聴時間も,5~10分程度という予想に対して,実際は平均で30分程度見られているとした。


写真4●MediaFLO専用端末「v.Card」(試作機)。組み込み用途も想定しているという
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 コイヤー氏は,このようなMediaFLOの特性を生かしたうえで,単にコンテンツをブロードキャストするだけではないサービスを目指すという。特に,MediaFLOが持つもう一つの機能であるバックグラウンドでファイルを伝送できる蓄積型サービスが,MediaFLOの発展のカギを握ると語る。

 さらにコイヤー氏は,携帯電話への搭載だけではなくMediaFLOの受信専用端末を検討していることも明らかにした。会場で,クアルコムが試作した「v.Card」と呼ぶ端末を披露した(写真4)。

国内では「ワンセグとの競合ではなく共存を目指す」

 一方,サービスに必要な周波数を獲得していないうえ(関連記事),ワンセグが急速に普及するなど,MediaFLOにとって逆風ともいえる状況が続いている国内について,メディアフロージャパン企画の増田社長は「有力コンテンツを無料で放送するワンセグは強い競争力があり,ワンセグと競合するようなビジネスモデルでは成功は難しい。日本においては,ワンセグといかに共存していくのかがMediaFLOのカギとなる」と語った。さらに増田社長は,「MediaFLOサービスを国内で考える場合,基本的には有料サービスとし,多チャンネルによる放送のメリットを訴求する」との方針を明らかにした。

 またモバイルメディア企画の矢吹雅彦社長は,「MediaFLOは周波数を有効利用でき,配信コストを下げられるのが魅力」と語り,ユーザーのライフスタイルが多様化し,多チャンネルのニーズが増えている中,MediaFLOが受け入れられる余地があるとの考えを示した。矢吹社長は,同社が現時点で考えるサービス像の一端も紹介。「例えば15分ごとにニュースなどでのコンテンツがリニューアルされる蓄積型のサービスを考えている。1時のニュースを見るのに,1時ちょうどにアクセスしなくても1時10分にアクセスすれば最新のコンテンツが視聴できるようになる」(同)。

 矢吹社長は最後に「我々は(周波数の再配分が始まる)2011年までサービス開始を待つつもりはない。できれば2009年中に一部の地域でもサービスを開始したい」と語り,MediaFLOサービス開始に向けてソフトバンク・グループが積極的である点をアピールした。