マイクロソフトが5月30日に開催した,オフィス・スイート次期版「2007 Microsoft Office system(Office 2007)」に関する説明会「Reviewers Workshop」に基づき,8回に分けてOfficeの新機能を紹介する。今回は,ピア・ツー・ピア(P2P)型グループウエア「Groove 2007」について説明しよう。

 Grooveは,米Microsoftが2005年に買収したGroove Networksの製品である。Office 2007からOffice製品のラインアップに加わった。これまでGrooveは日本で販売されていなかったが,今回ユーザー・インターフェースが日本語化され,日本でも正式に販売される。

 Grooveを開発したのは,「Lotus Notes」の開発者としても知られるRay Ozzie氏である。Ozzie氏は1997年10月にGroove Networksを設立し,Grooveを生み出した。そして同社が2005年にMicrosoftに買収されると同時に,今度はMicrosoftのChief Technical Officer(CTO,最高技術責任者)に就任している。

サーバー不要のグループウエア

 Grooveの特徴は,P2P型のアーキテクチャを採用している点だ。サーバーが不要なだけでなく,社外のユーザーとも簡単に連携できる。クライアント/サーバー型グループウエアの場合,ユーザーが作成したデータはサーバーに保存される。他のユーザーがデータにアクセスするには,サーバーに接続する必要がある。社内ネットワークに接続できない環境でサーバーのデータを利用するのは難しい。

 それがGrooveの場合,ユーザーが作成したデータはローカル・ディスクに保存されると同時に,他のユーザーにもP2Pで送信される。Grooveの通信はルーターやファイアウオールを容易に越えられるので,社外のユーザーとも簡単にコラボレーションができる。データは常にローカル・ディスクに保存されているのだから,オフライン環境で利用できるのは言うまでもない。

 Grooveには,ユーザー同士でセッション情報をやり取りする「リレー・サーバー」が必要だ。ただし,マイクロソフトがインターネットでリレー・サーバーを公開しているので,通常はこれを利用すればよい。セキュリティに気を遣うユーザー企業が,独自の「リレー・サーバー」を運用することも可能だ。Grooveユーザー間のセッションが確立した後は,データはリレー・サーバーを介さずに他のユーザーに直接送信される。通信は暗号化されているので,経路の途中で情報をのぞき見られることはない。

IT部門に頼まずに「掲示板」や「共有フォルダ」を作成できる

 Grooveの基本は「ワークスペース」の共有である。ワークスペースは,「ファイル共有」や「ディスカッション」(掲示板),「予定表」といったグループウエア機能を利用する「場」であると同時に,各データが格納された1個のデータベースである(写真1)


写真1:Groove 2007のワークスペース画面
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 ユーザーはまず自分のローカルに新しい「ワークスペース」を作成し,そのワークスペースに他のユーザーを「招待」する(写真2)。招待されたユーザーが承認すると,ユーザー間でワークスペースが共有される(ユーザーが作ったワークスペースのデータベースが他のユーザーに転送され,同期される)。ワークスペースのグループウエア機能を利用できるのは,招待されたユーザーだけである。


写真2:ワークスペースに他のユーザーを「招待」している画面。
右側の画面は常時起動している「開始バー」で,ここからワークスペースを選択する

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 ワークスペースで利用できる機能は,(1)ファイル共有,(2)ディスカッション(掲示板),(3)チャット,(4)予定表(カレンダ),(5)会議,(6)案件管理,(7)フォーム,(8)スケッチパッド(Windowsメッセンジャーにおける「ホワイトボード」のような機能),(9)画像(オンライン・アルバム機能),---である。これらの機能は,ユーザーが必要なものだけワークスペースに追加する仕組みだ。

 クライアント/サーバー型のグループウエアの場合,グループだけの掲示板を作ったりするためには,システム部門に作業を依頼する必要があることが多い。Grooveであれば,ユーザーだけで掲示板や共有フォルダを作成できるのだ。

ファイルの未読/既読も管理可能

 (1)のファイル共有は,その名の通りユーザー間でファイルを共有する機能である。Groove 2007のファイル共有の特徴は,ファイルの未読/既読の管理ができることと,ファイルが更新された場合はファイル全体が転送されるのではなく,更新された部分だけが転送されることである(写真3)


写真3:ファイル共有画面。ファイル名の左に表示されている
オレンジと黄色のアイコンが「未読」を示している

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 共有中のファイルは,複数のGrooveユーザーが同時に編集できる。ファイルのバージョンに不整合が発生した場合は,他のユーザーのバージョンを上書きするのではなく,違うバージョンの分だけコピーを作成する。

 Grooveは共有用のファイルを独自のデータベースに格納して管理している。データベースは暗号化されているので,Windowsの他のアカウントからはファイルを利用できない。

 (2)のディスカッションは,いわゆる掲示板機能である。書き込みは「議題」とそれに対する「返信」といった具合にツリー上に管理されるので,Q&Aなどの利用に適している。写真4はディスカッションのスクリーンショットだが,ディスカッションのメッセージにテキストだけでなく画像なども利用できることが分かるだろう。画面の右側には,(3)のチャット機能が組み込まれている。


写真4:「ディスカッション」の画面。
メッセージのタイトルをツリー形式で一覧表示できる

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 (4)の予定表は,グループの予定を管理する機能である。(5)の会議は,会議の出席者を管理したり,会議の議事録を登録したりするのに使用する機能だ。(6)の案件管理は,プロジェクトの情報を登録したり,プロジェクトの進行状況をチェックしたりする機能である。

帳票アプリケーションの開発も可能

 (7)のフォームは,ユーザーがアプリケーションを開発する機能である。Grooveには,アプリケーション開発用の「フォーム・デザイナ」が搭載されており,帳票アプリケーションなどを簡単に作成できる(写真5)。マイクロソフト インフォメーションワーカービジネス本部の松田誠シニアプロダクトマネージャは「Notesのアプリケーションを開発したことがある人なら,簡単にフォームを作成できるだろう」と述べている。Microsoft Officeの「InfoPath」で作成したフォームをインポートして,Groove用のアプリケーションに変換する機能も搭載している。


写真5:フォームのデザイン・ツールの画面。
帳票アプリケーションを作成できる

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 現時点でMicrosoftは,Groove 2007をボリューム・ライセンスでのみ販売するとしている。またOffice 2007のスイート製品へのGroove 2007の搭載も,最上位バージョンでボリューム・ライセンスでしか販売しない「Office Enterprise 2007」に限られている。ボリューム・ライセンス以外の一般販売の有無については「現在検討中」(マイクロソフト)としている。

 現行バージョンのGrooveの価格は,ファイル共有だけができるエディションが69ドル,基本エディションが179ドル,プロジェクト管理機能を備えたエディションが229ドルである。

【どう変わる?Office 2007】バックナンバー

  • UI編---膨大な機能をより使いやすく
  • Word編---定型作業が簡略化
  • Excel編---「行×列」が1024倍に
  • PowerPoint編---高品質なプレゼン資料が簡単に
  • IME編---予測入力機能などを追加
  • SharePoint編---企業情報ポータルが「コラボレーション・ポータル」に進化
  • Groove編---「Notesの父」が作ったP2P型グループウエア
  • Exchange/Outlook編---予定の調整が便利に