ITpro EXPO 2010の最終日(10月20日)は、2部構成、80分間の“拡大版”基調講演で幕を開ける。第1部はこれまで世界のビジネスを舞台に活躍してきた古川享氏(慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 教授)と外村仁氏(エバーノート 会長、First Compass Group ジェネラルパートナー)による対談、第2部は急成長中のクラウドベンダー、米EvernoteのCEO(最高経営責任者)であるフィル・リービン氏の講演である。
リーマンショック後の停滞感が続く日本にあって、ともすると元気と活気を失いがちなエンジニアとIT業界に対し、日米3人のキーパーソンが投げかけるメッセージ---。それが講演タイトルでもある「『個』の力を、組織の力に」だ。
厳しい経営環境に置かれた組織が、事業戦略やビジネスモデルを見直すのは当然のこと。それでもなかなか浮上できない閉塞感を打ち破るにはどうすればよいか。この疑問に対し、3人の論者は「組織を構成する一人ひとりが自らの潜在力を引き出し、高めることに尽きる。そのことが会社(エンタープライズ)の競争力強化や製品力強化につながる」との思いをメッセージに込める。
一口に力と言っても技術力だけを指すわけではない。「一人ひとりの想像力や表現力、審美眼、(製品・システムへの)愛情といったものを、いかに製品・システム作りに生かすか、ということがカギになる」(外村氏)という。
かつて古川氏と外村氏は、それぞれマイクロソフトとアップルコンピュータという巨大IT企業に籍を置き、ビル・ゲイツとスティーブ・ジョブズという希代のカリスマを間近で見てきた。その経験を持つ二人が、巨大ビジネスの行方ではなく、エンジニア一人ひとりの力を伸ばすことの意味を語り合う意味は重い。古川氏は昨年3月に開催された起業家向けイベントで、「ビル・ゲイツとスティーブ・ジョブズの共通点は人の意見を吸い上げ,自らの言葉にしてしまうところ」と述べている(関連記事1)。実はゲイツ氏とジョブズ氏も、自然体で「個の力を組織の力に」を実践してきたと言えるのかもしれない。
一方、リービン氏率いる米Evernoteは、いま最も勢いのあるクラウドベンダーの1社だ。日々の仕事や生活の中で、気になった情報や記憶に残しておきたい情報(テキスト、写真、画像、音声、Webページなど)を自由にクラウド上にアップし、パソコン、スマートフォン、携帯電話といった様々なデバイスで閲覧したり検索したりできるサービス「Evernote」を提供。サービス開始から約2年で400万人超のユーザーを獲得するなど、急成長している。
リービン氏は、2010年6月に日本法人であるエバーノートを設立した際の会見で、「日本市場はEvernoteの今後を担う大きな役割を持つ。日本人のユーザーや開発者の才能や創造性を本社の開発者と協調させる」(関連記事2、関連記事3)と述べた。同社自身が、個人の力をパワーに変えていく実践者なのである。
詳細は明らかではないが、EvernoteはITpro EXPOの会期中にエンタープライズ向けの取り組みについても言及する模様だ。“パーソナル・クラウド”のフロントランナーが、今後さらに「個の力を組織の力に」をどう具現化していくのか。クラウドに関心のある読者は、このチャンスを見逃す手はない。ぜひ会場へ足をお運びいただきたい。
『「個」の力を、組織の力に ~ 閉塞感打破のカギを日米キーパーソンが語る』
<10月20日(水) 10:00~11:20>
[第1部 対談]
「自分づくり」こそ出発点 ~ 技術力+αでカベを突破しよう
- 慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 教授
古川 享 氏 - エバーノート 会長、First Compass Group ジェネラルパートナー
外村 仁 氏
パーソナルクラウド ~ 個人力アップをエンタープライズの活力に
- 米Evernote CEO
フィル・リービン 氏