写真1●パネル・ディスカッションに参加した前刀氏,夏野氏,古川氏(左から)
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写真2●Tech Venture 2009」のファイナリスト<br>後列右から3番目がランゲートの喜洋洋社長
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 IT関連ニュース・サイト「CNET Japan」などを運営するシーネットネットワークスジャパンが2009年3月13日に都内で開催したイベントで,「Tech Venture---いま求められる起業家像,これから期待するビジネスとは」と題したパネル・ディスカッションが行われた(写真1)。出席者はリアルディアの前刀禎明社長(元アップル社長),慶應義塾大学政策・メディア研究科の夏野剛特別招聘教授(元NTTドコモ執行役員),慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科古川享教授(元マイクロソフト社長)。

 世界規模の不景気が続く現状について,前刀氏は「下克上の時代。ここぞとばかりに(新しいことに)取り組むべき」と,不景気の今こそベンチャー企業が新たな事業を創出する好機であるとの見方を示した。ただ,その上で重要なことは「普遍的な価値を提供できる会社であるかどうか」(前刀氏)であると語る。

 古川氏はこうした大義名分を持った上で,「上場や金儲けを目標にするのではなく,起業の原点に帰り,何度挫折しても這い上がる姿勢こそ必要」と失敗を恐れるよりも,事業目標にブレのないことこそ重要とした。夏野氏は「2000年代前半に上場した携帯電話関連ベンチャーはラッキー。今後は実力勝負の時代になる」(夏野氏)とこれまでの携帯電話関連ベンチャーに苦言を呈する一方,「(携帯電話を含む)インターネット市場の伸びはこれから」と今後の同分野での有力企業の誕生に期待を込めた。

 海外で成功した国内ベンチャー企業が少ないという市場環境の問題について,前刀氏は「米国発の事業モデルの真似では海外に通用するはずがない」と,海外進出には独自性が欠かせないと指摘。古川氏は「ビル・ゲイツ(米マイクロソフト創業者)とスティーブ・ジョブズ(米アップル創業者)の共通点は人の意見を吸い上げ,自らの言葉にしてしまうところ。これが日本人には欠けている」と日本人のヒアリング能力とプレゼンテーション能力に問題があり,これが海外で受け入れられない要因の1つであるとした。夏野氏もこれに同意して「何を伝えるか明確でない表敬訪問はベンチャー企業にも見られる。海外の経営者はそんなことに貴重な時間を割かない。そもそも会話のプロトコルが違う」と大小限らない国内企業の姿勢を問題視した。

 今後の国内ベンチャーの可能性について,夏野氏は「国内の携帯電話のインフラとデバイスは最高。サービス品質も高い。日本で通用すればどこでも通用する」と特に携帯電話関連ベンチャーへの可能性を指摘。前刀氏は「広告収入のビジネス・モデルだけでは駄目。デジタル展開に固執してアナログ展開を忘れているという問題もある。ただ,日本は本来,独自の精緻な技術力や豊富な表現力に富んでいる」と,日本独自の強みを生かし,新たなビジネスモデルの創出やインターネットと現実世界の融合が重要であるとの見方を示した。

 パネル・ディスカッションと同日に「Tech Venture 2009」というイベントも開催された。このイベントは,国内の優れた創業間もないIT関連ベンチャー企業を表彰するもの。グランプリには語学の相互添削SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の「ランゲート」,準グランプリはAR(拡張現実)を使った“電脳フィギュア”の「芸者東京エンターテインメント」,“複雑系”を用いた情報処理技術の「サイジニア」,名刺情報の電子化支援を行う「三三」,企業分析や財務管理支援ツールの「フィルモア・アドバイザリー」が選出された(写真2)。審査員特別賞は三三だった。