「この通い箱(クレート)は、きっちと洗浄されてるんでしょうね」――。“食の安全”に対する関心が高まる中、求められる対策は製造現場はもとより物流過程にも及ぶ。卸大手の菱食は、豆腐や納豆などの食品を運ぶためのクレートが洗浄済みであることを担保する仕組みとして、06年6月にICタグを導入した(写真1)。低温ロジスティクス本部・広島西風新都物流センターの跡あとじ治永ひさしセンター長は、「顧客の不安を解消するには、洗浄済みを確認できる仕組みが不可欠だ」と話す。

写真1●レンタル通い容器をメーカーに貸し出す際に洗浄済みかどうかをチェック
写真1●レンタル通い容器をメーカーに貸し出す際に洗浄済みかどうかをチェック
写真左は洗浄の出口 (写真:田頭 義憲)[画像のクリックで拡大表示]

 ICタグを付けたのは、菱食が食品メーカーと小売店にレンタルするクレート。06年2月に事業化し、現在は3600枚程度のクレートを貸し出している。最新設備である広島のフルライン物流センターにクレート洗浄機を置き、クレートが洗浄されたという情報と日付を洗浄機出口でICタグに書き込んでいる。メーカーに貸し出す際にクレートを読み取り、洗浄済みであることと出荷数を確認する。 

 それまで、低温輸送などには段ボール箱を使っていた。だが、使用後に破棄する段ボール箱はムダ。環境問題の観点からも、メーカーや小売店は再利用できる輸送手段を希望し始めている。そこで菱食が目を付けたのがクレートだ。だが、洗浄済みをどう証明するかが課題になっていた。

 ICタグの貼付は、別の効果も生む。クレート一つひとつの管理の徹底である。跡治センター長によれば、「個体管理していない状態ではクレートの6~7%が紛失する。レンタル先に滞留することも多く回転率が上がらない」。コスト削減要求が厳しい中では、紛失は大きなムダの一つだ。

 現在は、クレートの貸し出し時と返却時にICタグを読み取っている。クレートはきちんと返却されるし、回転率も想定以上に上がっている。個体管理によりレンタル期間を厳密に把握できるため、延滞料などを支払いたくない取引先が「急いで返却する」(跡治センター長)という。

 クレート管理システム構築の費用は、ICタグ付きクレートの費用を除き、3600万円弱。ICタグには、物流に向くUHF帯の製品を採用した。ただ、通信距離が長いことが逆に余分なICタグを読みやすいといった弊害にもなっているため、一部電波出力を弱めるなどして運用している。

【目次】
ロジックス、部品を指定の順序通りに納品 
植山織物、数万本の在庫を一括読み取り 
京都銀行、個人情報のセキュリティを強化 
菱食、容器レンタルの新事業を可能に 
エコス、カゴ車の紛失と誤出荷を防止 
NEC、パソコン部品を一つひとつ追跡