今や消費者が、片時も手放すことのないスマートフォン。財布は持たなくても、スマホだけは必ず持ち歩くなんて人もいるだろう。

 スマホという貴重な「顧客接点」が急浮上してきた以上、それをうまく使って、商売に結び付けたいと考えるのは自然なこと。スマホから頻繁にオンラインサービスを利用する人を、店舗などのオフラインサービスに誘導することを「O2O(オンライン・トゥ・オフライン)」と呼ぶ。ローソンやイオン、ファーストリテイリング傘下のジーユーなどが積極的に動き出している。

 その動きと同期するように、NTTドコモやソフトバンクといった通信会社は、企業のO2Oを支援しようと、新サービスの開発・提供に熱心だ。ドコモが2013年2月から東京・渋谷などで実験を開始したO2Oは、「音波チェックイン」という新しい技術を採用したことでも話題になっている。

 スマホが登場するよりも前、1990年代の終わりから2000年代の初めにかけて、日本でも「クリック&モルタル」という言葉がはやった。ただこの時はまだ、モルタルが主体で、そこにクリック(ネット)をどう絡めるかという議論が中心だった。

 しかし、あれから10年で状況は一変。スマホは消費者の生活の中心に位置付けられるようになっている。当然、O2Oではクリック&モルタルの頃とは違う発想が求められる。

 今ではスマホ上で買い物を完結することだってできるわけで、店舗にとってはかなり強力な来店動機を消費者に提供できないと、ネット店舗に顧客を持っていかれてしまう。米アマゾン・ドット・コムの勢いを警戒し、店舗でKindle(キンドル)を扱わない「アマゾン外し」の動きまで見られるようになっている。

ネットで買って気にいった商品に“会い”に行く消費者

 O2Oでは、スマホ利用者の取り込みがどうしても話題の中心になる。だがネット通販を手がけながら、リアルの店舗も持つ小売業にとっては、別の側面も見逃せない。

 例えば、ネット通販で全国の消費者に対し、地元の名産品などを販売している企業なら、ネット通販で商品の良さを知ってもらい、再購入を繰り返す熱烈なリピーターを育てると、ファンになった人たちは最終的には「あの店に行ってみたい」という気になる可能性が高い。

 わざわざ飛行機に乗って、商品を買い求めにやって来て、その場で出来立てを食べて帰る。こんな消費者もきっと現れるだろう。O2Oは使い方次第で、顧客の消費行動を大きく変える可能性を秘めている。

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