情報システムの“ユーザー企業”にとって、情報システムをどう活用すれば競争力を強化できるのか。ITベンダーやシステム・インテグレーターなどの営業トークや提案内容を見極めるうえで何に留意するべきか。ITベンダーなどに何かを求める以前に、“ユーザー企業”が最低限考えなればいけないことは何か――。
野村総合研究所で約20年間勤務した後に、人材派遣大手スタッフサービスのCIO(最高情報責任者)を務めて急成長を支え、『ダメな“システム屋”にだまされるな!』(日経情報ストラテジー編)の著者でもある佐藤治夫氏が、情報システムの“ユーザー企業”の経営者・担当者の視点から、効果的な情報化のための発想法を解説する。(毎週月曜日更新)
前回(第25回)までに、成長が行き詰まった「停滞企業」が“ユーザー企業”としてIT(情報技術)活用を考える時の3つのキーワードのうち「新事実」「新技術」の2つを説明しました。
ウォルマートは仕入れ先発掘コーナーを設置
第3のキーワードは「新ステークホルダー(利害関係者)」です。私は2000年頃、米ウォルマート・ストアーズのウェブサイト上に、あるコーナーを見つけました。ウォルマートに商品を売りたい人、すなわち、まだ見ぬ仕入先候補に向けたコーナーでした。
同社の本社は米国南部の地方都市にありますが、商品を売り込みたければそこを訪問するしかありません。ダラス空港からプロペラ機に乗り換え、さらに自動車で走り、ようやく同社の本社に到着し、そこで初めて待ち行列の最後尾に並ぶことができるといった具合です。
インターネット普及が一気に進んだ時、ウォルマートはこのインターネットという新技術を、顧客に対するネット通販だけでなく、新たな仕入れ先発掘にも利用したのです。仕入れ先候補は、ウェブサイト上のそのコーナーから、会社の説明、商品の説明、世界中のウォルマートのどの店舗なら納入できるかなどを入力します。私は同社幹部に会って直接話を聞いたことがありますが、インドや中国、ロシアからの売り込みが多かったそうでした。
インターネットは、「あなたが誰かを見つける」だけでなく「誰かがあなたを見つける」ことにも使えます。ウォルマートは世界最大の小売業ですから、世界中に同社と取引したいと考えている企業が多数存在していてもおかしくありません。しかしながら、米国南部の地方都市を遠路はるばる訪ねても、数十分あるいは十数分で無駄足だったことが判明する恐れがあるならば、インドや中国、ロシアなど発展途上国の企業が新商品を売り込みに来ることはないでしょう。
ウォルマートの試みは、空間と時間を飛び越える力を持ったインターネットの有効な活用方法ではないでしょうか。私はウォルマートのこの試みを知った直後にイトーヨーカ堂のCIO(最高情報責任者)にこのことを紹介しましたが、同社は即座に同種の試みを実行しました。