情報システムの“ユーザー企業”にとって、情報システムをどう活用すれば競争力を強化できるのか。ITベンダーやシステム・インテグレーターなどの営業トークや提案内容を見極めるうえで何に留意するべきか。ITベンダーなどに何かを求める以前に、“ユーザー企業”が最低限考えなればいけないことは何か――。

 野村総合研究所で約20年間勤務した後に、人材派遣大手スタッフサービスのCIO(最高情報責任者)を務めて急成長を支え、『ダメな“システム屋”にだまされるな!』(日経情報ストラテジー編)の著者でもある佐藤治夫氏が、情報システムの“ユーザー企業”の経営者・担当者の視点から、効果的な情報化のための発想法を解説する。(毎週月曜日更新)

 前回(第22回)までは、成長企業・成長事業に身を置く“ユーザー企業”における情報活用のあり方を説明してきました。成長企業では、とにかく変化や市場拡大の機会を逃さず、多少の費用対効果の悪さや非効率に目をつぶってでも、必要な情報化をスピード感を持って進めることが必要です。

 今回からは、前回までとは正反対に、成長が行き詰まってしまい閉塞(へいそく)感漂う「停滞企業」におけるIT(情報技術)活用のあり方を説明したいと思います。

年を取れば、守りに入りがちな人間

 最初に、企業や組織の停滞について、人間を例にとって考えてみます。私事で恐縮ですが、53歳の私が、昔卒業した学校の同窓会で感じることがあります。昔の仲間と何年かに1度集まって旧交を温めることは、ある意味で定点観測のようなものでしょう。年齢と共に風貌(ふうぼう)が変わっていくことは当然として、もうひとつ明らかな経年変化があります。年齢と共に、自分の可能性を信じなくなってくるのです。

 可能性が小さくなるのは当然のことでしょう。人生の残り時間が少なくなる分だけ、若いころに抱いていた夢や希望が現実的でなくなるのは、仕方がありません。しかし、可能性を諦める姿勢、可能性を信じない姿勢は、間違いなくその人の可能性を実際以上に狭めています。

 これと同じで、停滞している企業・組織は自らの可能性を諦めている場合が多いのです。例えば、ベストシナリオで進んだ5年後の姿と、ワーストシナリオで進んだ5年後の姿の両方を描いてみた場合、停滞企業ではベストとワーストの差が極端に小さいのです。頑張ってベストを追求しても「大したことがない」と考えてしまい、ワースト回避だけに意識が向いてしまうのです。

 高度経済成長期の日本では、国全体が成長していたので、企業の業界内順位やシェアが変わらなくても、各社が成長を実感し可能性を信じることができました。しかし、今はもう何十年も日本経済全体が成熟してしまっています。ですから、成長に対する強い意欲を持たない限り、成長を継続するのは容易ではありません。