情報システムの“ユーザー企業”にとって、情報システムをどう活用すれば競争力を強化できるのか。ITベンダーやシステム・インテグレーターなどの営業トークや提案内容を見極めるうえで何に留意するべきか。ITベンダーなどに何かを求める以前に、“ユーザー企業”が最低限考えなればいけないことは何か――。

 野村総合研究所で約20年間勤務した後に、人材派遣大手スタッフサービスのCIO(最高情報責任者)を務めて急成長を支え、『ダメな“システム屋”にだまされるな!』(日経情報ストラテジー編)の著者でもある佐藤治夫氏が、情報システムの“ユーザー企業”の経営者・担当者の視点から、効果的な情報化のための発想法を解説する。(毎週月曜日更新)

 前回(第21回)に続いて、成長企業のIT(情報技術)活用における「ベストシナリオ追求」の姿勢について書きます。前回はセブン-イレブン・ジャパンとヤマト運輸の情報活用の歴史を解説しました。

 次に、私がかかわった人材派遣大手スタッフサービスの事例を紹介します。第20回で触れたように、スタッフサービスは1997年ごろに「オージンジ・オージンジ」というフレーズが印象的な、派手なテレビコマーシャルを大量投入しました。

「2時間人選」のスピードを追求

 この宣伝が当たり、企業からの人材派遣要請(求人)と、派遣スタッフ登録(求職)の両方が同時に急増しました。当時のスタッフサービスは、「人選をとにかく短時間で行う」という方針で競争を勝ち抜こうとしました。「派遣スタッフに来てもらいたい」という“受注”を得てから、いかに短時間で派遣候補者を紹介するかということを追求したのです。

 企業は、欠員が出たときにすぐに人材を派遣してほしいと思うものです。もう一方の登録スタッフも、多くの人が複数の派遣会社に登録していて、より良い仕事を早く紹介してくれるところで働こうとします。両者の間には挟まれた人材派遣会社は、求人と求職を結び付ける仲介業に当たります。

 テレビコマーシャルの効果で求人も求職も急増していた同社は、スピード人選を極限まで追求しようと考え、顧客企業から受注する際に「2時間人選」を約束しました。「今から2時間以内に派遣候補者を人選します」という約束をした営業担当者は、即座に客先を辞して外に出ます。そして人選部門に電話をかけて、どのような人材がいつからどんな条件で必要になるのかを伝えます。

 人選部門は条件に合致した登録スタッフを探し、片っぱしから電話をかけます。本人が電話に出ることもあれば、出ないこともあります。電話に出た場合は、仕事の内容を説明し、その仕事ができるかどうかを確認しながら適性があるかどうかを判断します。そして派遣候補者が定まると、その人の“匿名経歴書”のようなものを顧客企業に見せます。

 スタッフサービスはここまでを人選と呼び、これ2時間以内で実現したのです。ライバル企業の中で最も速いところでも「24時間人選」ですから、信じられないようなスピードでした。